有名な姉 1
朝食の時、理子姉はずっと黙り込んだままだった。
俺と百合姉は何だか気まずそうにして、愛理姉の作ったご飯を食べる。
「……」
「……」
全員が無言だった。
その場に居づらくなるが、離れるというわけにもいかない。
「……ごちそうさま」
暗い声で理子姉はそう言った。
そして自分の部屋に帰っていく。
美香姉はそんな様子を見かねてなのか、急にテレビを付け出した。
「……」
動物番組だ。
きっと、美香姉はみんなにこれを見せたかったのだろう。
前なら、絶対に俺以外の人とは見なかったこの番組を。
えーと、今日は……ポニーの赤ちゃんか。
「可愛い……」
愛理姉は、ふとそうつぶやいていた。
百合姉も少し心を和ませたのか、その顔に少しだけ笑顔が戻る。
美香姉は幸せそうな顔をしていた。
そんな三人を見ると、自然と俺の顔にも笑顔が戻ってくる。
「……理子姉の所に行って来るよ」
百合姉はほんの少しだけうなずいていた。
俺は顔を少しだけ赤くしながらも、部屋から出た。
理子姉の部屋は、いくらもの紙が埋め尽くしていた。
それには全て譜面と歌詞が書かれてあり、近くには電子ピアノとギターが。
唯一紙が落ちてないベッドの上に、理子姉は横になっていた。
「……」
静かに寝ている理子姉は、何だか幼い子供のような雰囲気を感じられる。
歩いていこうとした時、足元に何かを感じた。
譜面を寄せて拾い上げると、それは一枚のCD。
「……聞かせてもらうか」
理子姉のCDだった。
ラジカセを起動させ、CDを中に入れる。
「聞いた事無かったからな」
ラジカセから、優しい音楽が流れてきた。
年代を見ると、つい最近のCDだ。
……俺たちの面倒見ながら、曲作ってたんだな。理子姉は。
「……」
爽やかな歌ではなかった。
悲しさが音楽の中を漂っている、そんな感じ。
理子姉は、布団の中で縮こまったままだ。
「理子姉……」
歌は、失恋ソングだった。




