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白金家の日記 -お姉ちゃんたちとのハーレム生活-  作者: 白金 将
第12期 あまあまポートフォリオ
348/375

場所取りの姉 1(美香姉)

 桜舞う季節……より、ちょっと前の話。電車で少し行った駅から歩いた先にある公園に俺と美香姉は座っていた。満開一歩手前の八分咲きの桜の下でブルーシートを広げ、その上で二人各々のことをしながら時間が流れるのを待っている。


 夜12時。同じ毛布の中で身を寄せ合いながらスマホで電子書籍を読むだけの時間。暖かくなってきた季節とはいえまだ夜の寒さは残っている。隣にいた美香姉は画面の光を落とすとこちらに腕を回して抱き着いてきた。

 湯たんぽのような姉さんの身体がお腹を暖める。ぬくい。


「美香姉、寒いか?」


 優しく抱きしめながら聞くと彼女はこくり、と腕の中で頷いた。ちょうどこちらも眠気が来たところだったので横になり、後で風邪をひかないよう毛布を二重にして二人分の身体に巻いた。姉弟巻きの完成である。


「これでいい?」

「うん」

「トイレとか行きたくなったら言ってね」

「うん」


 寒さで震えている姉さんを抱いて暖めながら目を閉じる。

 遠くの川からギィィ、と春の虫の鳴き声が聞こえてきていた。




 こうして寒い中じっと耐えているのも昼からのお花見に備えてだった。姉さんだけじゃなくいつものメンバーも集めて合計八人で集まることからブルーシートはそこそこ大きめなのが必要で、じゃあ問題なく場所を取るには、と考えた時に思いついたのが「夜からの場所取り」である。

 実際、同じことを考えて夜から来ている人の姿もちらほらと見受けられた。美香姉と二人で眠りに落ちると体が浮いたような感覚になり、ふと気が付けば心地よい夢の世界にやってくる。


(夢か……ん、あれは)


 妙にはっきりとした夢だったので自分でも夢だと気づくことができた。その直後に俺は近くで美香姉が背中を丸めて横になっている姿を見つけた。水の中を動くように彼女の下へ近づいた俺は優しくぽんぽんと叩くように「起こして」みる。


「……将?」

「美香姉も同じ夢に来たみたいだよ」

「そう」


 俺と美香姉は双子の姉弟で、そのせいか分からないがこんな感じに夢がつながることがたまにある。あまり慣れないことではあったが眠っている間でも大切な人と一緒にいられるのは嬉しいことだった。

 夢の中での美香姉がゆっくり起き上がると周りの景色が絵の具を混ぜたように歪み、それはシックな色合いの旅行電車の中の風景に変わる。


「遊ぼ」


 俺たちはいつの間にか湧き出ていたテーブルを挟んで向かい合った。美香姉がテーブルに肘を乗せると彼女の手の中に二枚のカードが実体化し、気が付けば俺は一枚のカードを持っている。見てみるとそれは「スペードの2」だ。

 こちらへ2枚のカードの裏を見せていた美香姉はもう片手の人差し指で「来て」と誘う。なるほど、ババ抜き勝負ということか。電車の中での定番遊びである。


「なるほど、じゃあ……」

「そっちはダメ」

「え?」


 こちらから見て右側のカードを抜こうとしたが、カードがかたくその場から動かなくなってしまった。美香姉がむすっとした顔をしながらこちらを見てくるからなんのカードか分かったようなものなんだけど……


「いやこっちでしょ」

「ダメ」

「ダメって」

「ダメなものはダメ」

「ええぇ」


 ぐいぐい、とカードを引っ張っていると美香姉は諦めたように溜め息をついてそのカードをくれた。ダイヤの2。よし、これで手元のスペードの2とペアになったから俺の勝ち……え?


「ちょ、なんで手札増えてるの」

「さあ……?」

「美香姉なんかやったでしょ」

「なにも」

「そんなぁ」


 手札にはなぜかジョーカー1枚とハートの3が追加されている。とりあえず「2」のペアを切って手札を減らして美香姉の番となる。なるほど、夢の中だから何でもありってことか……


「じゃ、そういうことなら……」


 美香姉が指を伸ばしたタイミングで2枚のトランプに念を送ってどちらも絵柄をジョーカーに変えた。少し意地悪かもしれないが先程やられたお返しである。美香姉はそのまま片方に人差し指を乗せたがこちらの顔を見てその手を止める。

 あくまで「なにもやっていませんよ」という風に取り繕う。そうして数秒ほどお互いに黙った後――美香姉はそのカードを引いた。


「ふふっ」

「え?」


 美香姉はそう言うと自分が手にしているカードを宙へ放る。空中で勝手に火が付いたカードは燃え落ちて灰が舞い、俺が手にしていたカードがするすると指の間を抜けて「ジョーカー」の絵柄を見せるようにテーブルで表になる。

 それが指すのはつまり、ジョーカーでない方を引いた、ということ。すなわち――


「ちくしょー、頭の中読まれないように頑張ったのに……!」

「私の勝ち」


 負けた悔しさを噛みしめているとなんだか身体がぽかぽかと暖まってきて夢の世界も輪郭が歪み始める。目の前の美香姉がにこりと微笑むのを最後に視界が真っ白になっていき――


 ――毛布の中で、美香姉を抱いた姿勢に戻っていた。

 眠りにつくときより少し明るくなった気がする。だが日の出はまだのようだ。


「ん……」


 腕の中で美香姉がもそもそと動いていた。顔を上げた彼女と目を合わせると向こうは少し自慢げな様子でにこりと笑う。夢の中での出来事は姉さんもしっかり覚えているようだ。

 お互い少し動けるように毛布を緩くしたが美香姉はぴったりくっついたまま離れようとしなかった。ただそうしていると美香姉のお腹がきゅうう、と音を立てる。


「お腹空いたか」

「……うん」

「近くにコンビニあるから、何か買ってくるか」

「お願い」

「毛布暖めててね」

「うん」


 這うようにして毛布の中から出ると肌寒さに身を震わせる。夜用に持ってきていた上着を羽織り、お互いにスマートフォンの充電があることを確認してから俺は公園近くのコンビニへ向かった。

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