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盗賊の姉 2

 夜のコンビニへ行く事は何度もあったが、理子姉と一緒に行くのは回数的には多くない。やはり彼女が有名人だと言うこともありなかなか外に出ないのだと言う。あと、コンビニの中で自分の曲が流れると恥ずかしいのだとか。

 夜道を並んで歩きながら、周りに誰もいない時を見計らって理子姉と手を繋ぐ。俺と理子姉が姉弟であることを明確に知っている人は少ないけれど、それでも他の人に見つかってしまうのではないかというちょっとしたドキドキに酔いしれていた。


「将君とこうやってお出かけするのも久し振りだね」

「理子姉とどこか行く時って車だからな、歩きはあんまりない」

「夜のコンビニ行くのも久し振りだし……何買う? お姉ちゃんが何でも買うよ?」


 指先を絡める、俗にいう「恋人繋ぎ」。

 白い夜灯で照らされた理子姉の表情はいつもの何倍も幻想的で、まるでこの世ではないどこかから自分をさらいに来たのではないかと思う程に現実性がない。そんな彼女の姿は天使のようにも見えて、一緒にいるだけでも自分は幸せでいっぱいで理子姉とこうしていられることが嬉しくて仕方ない。


「ねえねえ」

「どうした?」

「こっちこっち」


 理子姉が手を引いてどこかへ誘導しようとしていた為、それに付いて行く。あまりに安直にそうしてしまったせいか、気を抜いていた俺はすぐさま町の掲示板を背に理子姉から迫られてしまった。逃げようにも腕を掴まれて壁に付けられてしまったため姉さんの為すがままになるしかない。


「理子姉……!?」

「しーっ。くふふ、捕まえちゃったっ」


 逃げようと思えば逃げられる……かもしれない。

 でも、目の前で楽しそうに目を輝かせる理子姉を見るとそれができなかった。自ら進んで彼女へ身を差し出してしまいたい衝動にも駆られ、姉さんに食べられるのを待つかのように身体中から力が抜けて行ってしまう。


「とってもかわいい目をしてるね……」

「えっ?」

「私のこと、好きでしょ?」

「うん……」

「本当はここでいろいろしてあげたいけど……今はこれだけ、ね?」


 抵抗する手段を一切失ってしまった中で行われる、姉さんからの優しいキス。理子姉がしたいだけ、やりたい放題できる、こちらへの主導権が全くないキス。唇から自分のすべてを彼女へ委ねているようで、もういよいよ魂すら明け渡してしまう危ない気持ちにすらなってしまう。

 誰が来るかも分からない場所で感じる理子姉の柔らかい唇。こんなの、頭が変にならない方がおかしいわけで……


「りこねえっ」

「大丈夫だよ。今は誰も来ないから……」

「好き……」

「私も、将君の事が大好きだよ……♡」


 足腰に力の入らなくなった俺はそのまま理子姉の身体へもたれかかる。胸元に感じられる理子姉の胸のやわらかさで思わず変な声が出てしまった。身体中に冷たい何かが走ったような気がして、思わず「りこねえ、すき、すきっ」と口走ってしまったような気がする。

 しばらく俺のことを抱きながら姉さんはよしよしと甘やかしてくれた。迷惑かけてばかりだけど、子供に戻ったように何も出来なくなってしまったから、今更どうしようもない……!


「もうっ、仕方ないなぁ。ちょっとだけだぞ」

「おっぱい柔らかい……」

「将君は本当にお姉ちゃんのおっぱいが好きだね♡」

「好きぃ……」


 耳元でそっと囁かれるだけでも身体がビクッと震えてしまう。

 このままこの場所で理子姉に甘やかされて眠りにつきたい……


「んーっ」

「理子姉?」

「そうだなぁ。買い物終わったら、たくさん甘やかしてあげようかなぁって思ってるんだけど、どう? 将君にもおつかい頼みたいし……」

「やるっ」


 理子姉からご褒美を提案されただけで失っていた力が戻ってきた。家に帰った後にこれ以上甘やかしてもらえる、その想像をするだけで自分が溶けてしまいそうだけどとりあえず今は買い物を終わらせることを優先できた。自分の足でしっかり立つと、理子姉はちゃんと頭を撫でてくれる。うれしい。


「よし、それじゃ、コンビニいこっか」

「うんっ」


 また一緒に手を繋いで、夜道を辿ってコンビニへ向かう。

 帰ったらご褒美って、一体何をしてもらえるんだろう。考えただけで幸せだぁ……




 家に帰るまではしっかりしていないといけないので何とか自分を持ち直し、理子姉と二人でコンビニへ入る。顔バレしないように理子姉はしっかりとマスクをして長い髪を一本のポニーテールに結んだ。もうその姿がかわいいからいつもそうしていいくらいだと思うんだけど、理子姉は恥ずかしいのかあまりやってくれない。


「えっと、じゃあ何買うか決めてくれる?」

「俺はこの缶チューハイでいいかな。理子姉もいつものにする?」

「うん、いつも通りこのハイボールにするよ。将君もレモン味好きだねぇ」


 長い間一緒に暮らしているとお互いの好みも自然と把握できるようになってくる。自分の好きな物を好きな人が知っている、というだけでも心の奥がじんわりと暖まるようだった。あと他に買う物がないか店の中を回っていると、ふと店内の放送から聞き覚えのある曲が流れてくる。


「あ、この曲……」

「うっ」


 理子姉が都合悪そうな目になって俯いた。なかなか見られない様子であるため、今まで散々やられた分を少しでも返そうと理子姉の顔をじっと覗き込んでみる。イントロを終えて理子姉の歌声が流れた後に姉さんの声でのアナウンスが入る。


『ご来店の皆様、白金理子です! 新アルバム「Ghost Fantasy」がリリースされましたが皆さんもう聞いてくれたでしょうか? 今なんと、購入後のレシートを送付するだけでライブチケットが当たるキャンペーンを行っています!』

「あ、これ理子姉の」

「あんまりじっくり聞かないで……」


 一転して甘えたような声になった理子姉は少し困った目になりながらこちらを覗き込んできた。その様子も可愛かったけれど、後からご褒美が貰えないと寂しいからあまりその辺を突っ込まないことにした。ゲーム内の夜が明けるには一時間半ほどかかるため、その間を飲んで過ごせるようにお酒を探す。

 俺がいつものレモンチューハイを取ると姉さんはいつも飲んでるハイボール缶を手に取った。仕事の関係もあってお酒は控えている理子姉だから、いつもとは言ってもちょっと珍しい光景である。


「将君はお酒飲んだら性格変わるタイプ?」

「うーん……どうだろう? 自分で覚えてるものなのかな」

「私の予想だとね、将君は……」


 買い物かごにお酒を入れた後、理子姉は耳元で「お姉さんの声」で囁いた。


「とーってもえっちで、とーっても甘えん坊さんになっちゃうと思うな……」

「……!」

「大丈夫だよ。帰ったら沢山甘やかしてあげる約束でしょ?」

「うん……」


 心の中がさわさわとくすぐったい気持ちで溢れそうになるのをこらえながら、コンビニの中でそれが爆発しないようにおにぎり数個とおつまみの乾菓子をかごに入れた。それを理子姉が取るとレジに行って会計をしてくれる。

 いつまでも理子姉に頼れるわけじゃないことは分かってるけど、でも、やっぱり姉さんの傘の下で惰性的に生きていきたい気持ちがあるのは否定できない。理子姉に養われたい……


「よし、じゃあ帰ろっか」

「うん」


 コンビニを出た俺たちは行きと同じように恋人繋ぎで家へ帰る。帰ったら甘やかしてもらえる、そう言われていた俺は玄関をくぐった瞬間に理子姉に抱き着いてしまった。彼女もそうなることを分かっていたのか仕方なさそうにはいはいと答えながら受け止めてくれた。


「そうだもんね、お姉ちゃんに甘えたかったんだもんね」

「りこねえ……」

「よーしよし、まだ時間あるからその間たっぷり甘やかしてあげる」


 そのまま姉さんの部屋に戻り、ゲームの時間がまだ夜であることを確認した後に理子姉とお酒で乾杯をした。いつものレモンチューハイを飲んでいると頭の中がうっすらとぼんやりしてきて、気が付いた時には理子姉と二人でベッドで横になっていた。優しい瞳に見守られながら、俺は姉さんの身体に埋もれるように抱き着いた。甘い香りと大好きな声に包まれながら、身体と心が浄化されていく……


「好きなだけぎゅっとしてもいいからね」

「うん……」

「大好きだよ、将君」

「俺も、理子姉のこと好き……」

「えへへ、すっかり甘えん坊になっちゃったね」

「うん……」


 難しいことをどんどん忘れて、理子姉のことが好きだという簡単な気持ちだけにされていく。今日も、この先もずっと、姉さんがいてくれればそれだけで幸せなんだ。

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