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踊り子の姉 3(終)

 暗い牢獄の中で愛理姉と二人で体育座りをしていた。

 ステータスには「収容中」という文字と数時間くらいのカウントダウン表記がある。


「結局捕まっちゃったね」

「半分は愛理姉のせいじゃん」

「そんなこと言わないでよ……」


 ゲームの中で「いけないこと」をしてしまったのが運営にバレてしまったらしく、謹慎期間としてリアル時間で数時間程牢獄の中に留まることになってしまった。牢獄とはいえ二人で滞在している狭い場所は独房のようなところで、あまり広いと壁にめりこんでしまうため一緒に体育座りで小さくなっているのだった。

 あの扇情的なドレスからは着替えさせられたらしく、薄汚れた布を身体にくるんだような雑多な格好になって愛理姉は溜め息をついている。華やかな見た目から一転、なんともみすぼらしい姿へと転げ落ちても姉さんが魅力的な女性であることには変わりない。


「ごめんね」

「姉さんが謝らなくてもいい。数時間待てばいいんだから」

「将君もいっぱいゲームしたかったんじゃないの?」

「俺は姉さんと一緒に遊びたかったから、これで」

「……もうっ」


 わずかに頬を膨らませながらも愛理姉はちょっとだけこちらへにじり寄って腕をぴったりとくっつける。素直でない様子である。かといって正直に言わせるのも何か違う為、彼女の背中に腕を回す。姉さんはほのかに温まっていた。


「そういうところ、ずるい……」

「いつも愛理姉にはお世話してもらってるからね」

「それとこれとはちがうの、将君にお返ししてもらいたいわけじゃ」

「愛理姉」


 こつん、と彼女とおでこをくっつける。

 離した後も愛理姉のことをじっと見つめ続けていると、姉さんの目が僅かに色を帯びた。


「将君」

「どうした?」

「キス、してもいい?」


 少し間を置いて静かに頷くと滑らかな手が俺の頭へ伸びる。そうして装着しているVRゴーグルを引っぺがすと、現実世界で俺は愛理姉のベッドへ押し倒された。身体の上に乗ってくるむちむちとした肉感が心地よくて思わず声を上げてしまったが、その直後に姉さんの唇が被さってくる。

 やわっこくて、あたたかくて、気持ちいい……愛理姉と、キス、してるんだ。


「好きぃ……」

「俺も、愛理姉のこと、好き」

「うん、分かってるよ……」


 ちゅっ、ちゅ……優しくちょっとだけ重なるような口付け。

 包み込まれるような身体の温かさ、とろけるような唇の柔らかさ……


「んんっ、もっと、ぎゅっとして……」

「うん……」

「私も、将君のことたくさんぎゅっとするから……♡」


 愛理姉のことを抱き枕にしているうち、身体全体がふやけて気だるくなってしまう。襲い掛かってくる眠気にさえも耐えながら大好きな人の大好きな姿を見ようと細目を開けた。頬を上気させてもなお必死に理性を保とうとしている姉さんは、俺が背中に回していた腕に力を込めて抱きしめると甘い声で鳴き始める。


「はあっ、ダメっ、お姉ちゃんなのに、気持ちよくなっちゃう……♡」


 首の辺りで深く息を吸った愛理姉は浮かせた片脚をぴくぴくと痙攣させた。気持ちよすぎて身体の震えが止まらないのだろう。それは俺の方にも伝わってきて、互いが互いの身体を締め付けていくから幸せが止まらない――

 周りのことが何も見えなくなるその寸前、愛理姉の部屋のドアがノックされてしまった。突然のことに彼女もどうしたらいいか分からないようで、変に上ずった声で返事をしてしまう。


「ひゃっ……? あっ、駄目……!」


 時すでに遅し。部屋のドアは開けられてしまう。

 そしてそこに立っていたのは理子姉と百合姉……?


「ちょっと返してもらえるかなーって……ありゃりゃ」

「あら、また随分と盛っちゃってるじゃない」

「ちがうのっ、まだそんなことしてないっ……♡」

「わぁ、愛理、とっても幸せそうな顔してる……」


 入口の辺りに立つ二人は興味津々な様子で俺たちのことを見ているようだった。二人の視線を感じる中でも愛理姉の誘惑から逃れることはできなくて、姉弟で強く抱きしめ合っているところを姉さんたちにじっと観察されてしまう。理子姉と百合姉が特に何かしてこようというつもりはないらしいけれど、愛理姉の顔から余裕がなくなった。


「二人でゲームしてると思ったのに、一体何をしてたのかしら?」

「これはっ、ゲームの練習なのっ♡ 将君のこと、色仕掛けしててっ……♡」

「ねえねえ、どんな風にやってたの?」

「えっとね」


 何を思ったのか、愛理姉はそれを聞くや否や俺の上へ被さるようにマウントを取るとそのまま両肩をを掴んで逃げられないように固定したのだった。愛理姉の目を見てみたけれど彼女がどこを見ているのかもよく分からない。


「こうやって……将君に、大好きな匂いを嗅がせて……」


 愛理姉は恍惚とした表情で身を乗り出すと、その大きな胸で服越しに俺の目を塞いでしまった。かなり強く押し付けられているため逃れることはできず、愛理姉に半ば潰されるような体勢になってしまう。

 う、息が……そうだ、ゆっくり、息を吸うんだ……っ!?


「ひゃあっ♡ いっぱい吸われてるっ♡」

「へぇ、そうやって将君をダメにするんだ……」

「そうそう、将は私たちの匂いに弱いのよね」


 少しでも息を吸うたびに愛理姉の匂いが入ってきて頭の中が馬鹿になっていく。

 まずい、このままでは彼女に好き放題されてペースを持っていかれてしまう……!


「愛理姉、これはっ、んむっ――」

「なんにも考えちゃダメ……一緒に気持ちよくなろ?」

「む……!」


 姉さんの、匂いが、いっぱいに……!

 こ、これはっ、やばい。愛理姉、好き……♡


「愛理姉……」

「んんっ♡ 将君、好き……♡」

「ゃぁぁぁ」


 身体に力が入らなくなる。

 床で横になったまま動けなくなった俺は、愛理姉に"落とされて"しまった……


「ぁ……」

「もーっ、将君がふにゃふにゃになっちゃったじゃん」

「ねえ、ちょっとやりすぎたんじゃない?」

「ええっ、そんなつもりなかったのにっ……♡ 将君っ、将君っ」


 姉さんたちの声が何だか遠い所から聞こえてくるようだった。薄目で見たのは、すっかり自分を抑えきれなくなった愛理姉と、可愛い妹の成長を見て満足げに微笑んでいる姉さんたちの姿……




「『剣の舞』――」


 赤いドレスに身を包んだ愛理姉が華麗に舞を踊るとステータス上昇のバフが入る音がした。軽く入れた剣撃一つのダメージ量も上がり、周りを囲んでいたモンスターたちは次々と攻撃の前に倒れていく。残っていた敵も愛理姉のスキルで「魅了」状態になっているためかその場から動けないようで、すぐさま剣の餌食となった。

 森の中。とは言っても、あの時猛練習した場所よりもレベルが上がっている場所。そこで二人の進化を実感しながら武器を鞘に納めた。


「おつかれさま、将君」

「うん、おつかれ。愛理姉の踊りも上手になったね」

「えへへ、いっぱい練習したからね……」


 少し照れているようにこめかみを掻いている姉さん。それに橙色の光が差し、ゲーム内の時間が夕方になりつつあることを悟った。もうすぐ夜になって森には今よりも強力なモンスターたちが現れるようになる。


「姉さん、一回街に戻ろうか。まだこの辺で夜の徘徊は難しいし」

「そうだね……じゃあ、宿屋で一休みしない?」


 僅かに色づいた声で愛理姉が提案を持ちかける。

 普段ならすぐに返事できるはずなのに、なぜかこの時は言葉が詰まってしまった。


「将君もたくさん頑張ったし、お姉ちゃんが労ってあげる……」


 こちらへ背を向けた彼女は一足先に森の外へ歩き始めてしまった。慌ててこっちも追いかける中、ステータス画面を開いて愛理姉のことを急いで確認してみる。そしてその職業欄には「踊り子」ではなく、上級職の「夜の蝶」の文字が……

 急いでステータス画面を閉じて愛理姉の方を見るが、ドレスに浮かび上がった姉さんの身体のラインについ見とれてしまう。駄目だ、向こうにはきっとそんなつもりないはずなのにっ!


「さっきから黙ったままだけどどうしたの?」

「えっ……?」

「お姉ちゃんと一緒じゃ嫌だった……?」


 振り返りながら、ちょこっとだけ不安げな顔で尋ねてくる愛理姉。

 嫌なわけがない。嫌だなんて思ったことは一度もないのに、くうっ……!


「嫌じゃないよ。むしろ姉さんと一緒で嬉しい」

「ふーん」


 姉さんは満足そうに微笑むと、妙に頬を赤くしながら俺の腰の後ろにそっと手を置いて共に歩み始める。この後一体何をされてしまうのか、わかっててもわからないふりをするしかない俺は緊張した面持ちで愛理姉の為すがままになるのだった……


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