踊り子の姉 1(愛理姉)
「え、ええっ、こんな服装になるの?」
「うわ……なんっつうか、えっちだな……」
「見ないで! 見ないでー!」
VRゲーム「SterGate Online」をプレイしていた俺は、胸元を覆い隠す愛理姉を目の当たりにし気まずい空気を肌で感じていた。
愛理姉の部屋で一緒にVRゴーグルをつけてゲームをしているのだが、ゲーム内で愛理姉が選んだ職業「踊り子」のせいで彼女の服装は扇情的なものになってしまっていた。フラメンコを踊る人が着るような赤いワンピースは胸元がざっくりと開き、普通にしているだけでも愛理姉のありがたい谷間が上から見えてしまうのである。
「ううっ、データ作り直すの面倒くさいし、どうしよう」
「ま、まあ、しょうがないよ。他の衣装手に入るまでの我慢だから」
「……将君、変な事考えてるよね?」
「いやなにも。信じてくれよ」
「ジトぉ」
今、姉さんと二人で立って居るのはゲームの中の一番最初の街。
ほかのプレイヤーがたまに近くを通り過ぎる時、愛理姉のおっぱいに視線が吸い寄せられているのがこちらからも分かった。それが彼女は不服なようである。
「……ねえ、どっか別のところ行かない?」
「ああ。早い所敵を倒してお金も稼がないといけない」
「そうだよ、そうしよう! 早く衣装別のに買い替えたい!」
愛理姉の必死の要望に応えるように、俺たち二人は町を出て人気の少ない森の中へと進んで行った。道中何度かモンスターに遭遇したが、美香姉に鍛え上げられていた為か愛理姉をカバーしながら戦うことができた。
踊り子という職業は決してメジャーな職業ではない。
しかし、多種多様なダンスによって味方全体を強化することとなれば魔法使いなどの他の職業を抑えて最高クラスであった。モンスターと戦うことを怖がっていた愛理姉が「私はみんなの援護したいなぁ……」とか言ったから美香姉の進言で彼女は踊り子になったわけではあるが――
いかんせん、おっぱいがおっぱいしてしまっている。
それは愛理姉が素で巨乳だというのも原因だった。それが踊るのだ。ぷるんぷるん。
「ここだったら他のプレイヤーはあまり来ないぞ」
「うん……そろそろダンスの練習もしないとダメだね」
「案外難しくはないみたいだけど、休み休みやっていこうな」
VRであるこのゲームは、実際に踊り子となるプレイヤーが簡単な振り付けをすることによってゲーム内でキャラクターがそれに合ったダンスを踊る仕様になっている。最初は恥ずかしがっていた愛理姉だが、これも必要な事だと自分に言い聞かせて俺の前でいろいろ振り付けを取り始めた。
「え、えっと、右腕をこうやって上げて、左手でスカートの端を持って……」
くるりと華麗に一回転。そのまま靴のかかとで地面をたたくようにステップ。始めたばかりのためか動きはまだおぼつかないが、それでも彼女の動きは「らしく」見える。
「たんたかたん、たんたかたん……」
あいにく地面は土であるため靴音は聞こえてこなかったが、愛理姉の着ている服も相まってか少しずつ上手に見えてくる。そうしているうちに俺の身体から細かい光の粉が舞い上がってきた。
必殺技チャージ時間短縮。愛理姉のダンスが効いてきた。
「ね、ねえ、これどうかな?」
「いい感じだ、この分なら実践でも――」
そう言いかけた時、ふと、視界の端が桃色になっていくのを確認する。
慌ててステータス画面を見ると、そこには「誘惑状態」の四文字があった。
「あーっ、これ駄目っぽいな……」
「ええっ、どこかダメだったのかな?」
「うーん」
「わあっ、将君、なんか変な目してる! ってこっち来ないでー!」
「ううっ……」
なぜかは分からないけど目が勝手に愛理姉を捉えてしまう。
身体が言うことを聞かず、愛理姉の方へゾンビのように向かっていく……
「ゆ、誘惑!? なんで? 私なんにもしてないよ!」
「やっぱり……愛理姉ってえっちだよね……」
「わーっ! これダメなやつー!」
両腕で愛理姉のことをぎゅっと抱きしめる。ゴーグルがぶつからないよう二つとも外し、愛理姉を部屋のベッドにゆっくりと倒した。どうしたらいいか分からない様子の彼女の頬は赤くなっていて、抱いた感触の良さも相まって夢心地になってしまう。
「無理……愛理姉、可愛い……」
「うー、こんなんじゃゲームできないよ……」
「愛理姉のことが好きすぎてゲームできない……」
もにゅん、とやわらかいものをアイマスク代わりにして転がっていると、愛理姉の腕が背中にゆっくり回ってきた。そして、俺がしているように彼女も抱きしめてきて――
「そんなにくっつかれたら、私だって……」
「愛理姉?」
「いいよ、将君のこと、たくさん甘やかしてあげるからね……♡」
雰囲気にあてられたのか「お姉ちゃん」の目になった愛理姉はこんな感じになった俺の頭を撫でてくれた。こうしているとやっぱり愛理姉は理子姉の妹なんだなって思わされる。あと、おっぱいやわらかくてずっと顔をうずめていたくなる……
「あのさ、愛理姉」
「なに?」
「その、後で……お願い、できるかな」
僅かに間を置いた彼女は思い当たると、えぇぇぇ、と伸びた声をあげる。
仕方なさそうに、でもちょっと、いや結構恥ずかしそうに頬を赤らめて……
その日の夜、ちょっと遊び過ぎたことで溜まってしまった家事を愛理姉と一緒に片づけていた。乾燥機にかけていたものを畳んでまとめ終わった後に部屋へ戻ろうとすると、愛理姉がどこからともなく高校の頃の体操着を取り出してどこかへ向かおうとする。
「どうしたの?」
「えっ? あ、ちょっとダンスの練習したくて……」
ちょっとだけ疲れているようにも見える彼女。何か声をかけないといけないような気がしたけれど、一日頑張って自分も疲れがたまっているせいか欠伸で言葉が出てこない。結局おやすみと簡単に挨拶を済ませて俺は自分の部屋に戻っていった。
VRゲームはなんだかんだ言って身体も少し使う。
だから心地よい疲労感もあってすぐ眠りに落ちたのだが……
「……ん」
頭が一割くらい起きた。身体もほとんど動かない中、何となく自分の隣に誰かがいるのが分かる。ほんのわずかだけ目を開けて隣を見るとそこには何だか見慣れた赤茶髪が見えた。ゆっくり身体に力を入れてそちらへ転がると暖かみのある身体と密着した。
「ん……」
「愛理姉……?」
身体がなんだか安定しなかった。するとベッドの下へ落ちるような感覚と共に夢の中へ一気に沈み、愛理姉の体温を感じながらふわふわとその辺りを漂い始めた。まるで船で揺られているかのようにゆらり、ゆらりと揺れている――そうしていると愛理姉の着ている服がゲームの中の赤いワンピースに変わる。俺も気が付くと彼女の上に覆いかぶさるような体勢になっていて、付近の景色はダンスの練習をしていたあの森の様子へと変わっていく。
前にもこんなことがあった。確か、美香姉と一緒にいた時……?
「もう、そんなことしちゃダメでしょ、将君っ……!」
「えっ……?」
「他の人に見つかったらスクショ撮られちゃうよ……?」
彼女の言っていることがよく分からずに目をぱちくりさせる。そして怖い位に頭が働いて今の状況を察してしまった。本当にずっと長い間一緒にいたように俺は目の前の姉さんと目を合わせて、恥ずかしそうに頬を染めている彼女に優しく微笑みかける。夢の中だから、という邪な心をなんとか抑えながら言葉を選ぶ。
「それでも、いいよ」
「そんなぁ……」
小さな声で諦めたような、でも、ちょっとだけ期待してしまっている声。
愛理姉は目を潤ませながら、恍惚とした顔で口を僅かに開いた――




