台風直撃の姉 3
「愛理。私も混ぜて」
その時、理子姉の声が聞こえてきた。
理子姉が俺の頭の辺りに座る。
「理子姉。せっかく将君と寝ようとしてたのに」
「私だって一人だと寂しいわよ」
理子姉の計らいにより、数秒後俺は理子姉の膝の上に頭を乗せていた。
俗に言う、膝枕である。
「ぶー」
もはや顔が蒸発しかねない俺をさておき、愛理姉は口をとんがらせた。
理子姉を大人の女性とした場合、愛理姉は子供のようだ。
「どうしたの? 顔が真っ赤ね」
理子姉は俺の頬を撫でながら、そっとつぶやいた。
優しくすべすべした手が皮膚に触れるたび、俺の心臓の鼓動が一段と高くなるのを感じる。
外の台風の轟音が、今の俺の耳には入らなかった。
朝ごはんが食卓に並んだ。
愛理姉が作った、白いご飯に鮭。玉子焼きとほうれん草のおひたし。
食卓には、百合姉以外が座っていた。
「あれ、百合姉は?」
「まだ寝てるよ。仕事で疲れてんだって」
理子姉は静かに言う。
ふと、泣いている百合姉の姿が俺の脳裏をかすめていった。
「ご飯食べよ。将君」
「……ああ」
後で様子見に行くか。百合姉が心配だし。
玉子焼きを運ぶ手の動きが、いつになく鈍く感じられた。
百合姉の部屋は、暗かった。
奥にあるベッドに乗っている布団が、山になっている。
……いる。
「百合姉?」
「……」
返事はなかった。
俺はベッドの近くまで足を運び、百合姉の布団を少しめくる。
「……!」
百合姉は、俺の腕を掴んで中に引きずり込んできた。
「おわっ!?」
あっという間に百合姉に抱かれてしまう。
……この感触、まさか。
「将……」
「百合姉……」
百合姉は、下着姿だったのだ。
見えなくても、身体中が感じるフェロモンの量が半端じゃない。
部屋が真っ暗だという事に感謝しなければ。
さもないと、鼻血を出して空へ逝ってしまう。
というより、この状況を何とかしないと。
「私は、将の事が好き……」
まるで、俺がそこにいないかのように百合姉はつぶやいた。
百合姉の吐息が俺の首にかかり、少しだけ湿り気を帯びる。
それは媚薬のようで、俺の身体は徐々に熱を帯びていく。
気がつくと、俺は百合姉の背中に腕を回していた。
「将……?」
「百合姉……」
戻れない。
こうなると、俺はもう戻れなくなってしまう。
ただでさえ感情的になると暴走する俺に、百合姉の吐息が重なった。
百合姉の胸が俺の身体に当たり、俺の身体中から汗が滝のように出る。
そして、俺は百合姉を思い切り抱きしめた。
「ちょ、将……!」
「ごめん。百合姉」
嫌だった。
絶対に嫌だった。
一人で泣いて悲しんでいる百合姉を、ただ見ているだけにする事が。
「今日は、俺と一緒に寝てくれないか?」