台風直撃の姉 2
居間に行っても、美香姉は俺にしがみついたままだった。
雷が鳴るとぴくっと震え、俺に強くしがみつく。
「……将」
怯えるような声で、美香姉は何度もつぶやいている。
前に感じた、あの気持ちが徐々に蘇って来ているのを感じた。
何とも言えないあの気持ちが。
「ほら。オレンジジュースだぞ」
「ありがと」
美香姉は俺の渡したコップを持ち、喉にジュースを流し込む。
両手で少しずつ。ちょび、ちょび、と。
美香姉ぇ……可愛すぎだ……はっ。
「ひゃっ」
再び雷が鳴った。
美香姉は持って来た毛布にくるまり、がくがくとその場で震える。
俺は気がつくと、美香姉を後ろから抱いていた。
「将?」
「……っ」
振り向いた美香姉は、顔を真っ赤にしていた。
ぽわぁ、となる美香姉は、俺のほうに身体を預ける。
……どうしよう。これ、結構気恥ずかしいシチュエーションだぞ。
美香姉の体温が布団を通して、じんわりと俺の胸に伝わってきた。
「……美香姉」
「……」
美香姉は俺のほうによっかかって、寝息を立ててしまった。
俺は美香姉を床に寝せて、布団をかけ直す。
「全く」
美香姉は、ハムスターが眠るときのように丸くなっていた。
たまに「ふぅん」と声を出すのに、何度も口元がニヤけてしまう。
「将君……あれ、美香ちゃん寝ちゃった?」
愛理姉がカルピスとコップを台所から持ってきてくれた。
コップは二つ。きっと俺の分か。
「将君。たまには、一緒に勉強する?」
「あ、ああ」
突然の提案に驚いたが、俺は承諾した。
愛理姉と勉強。それだけで、胸が高鳴るのだ。
机の上に、二冊のノート。
カルピスの入ったコップが二つ、並んでいる。
「あれ、そう言えば理子姉と美香姉は?」
「二人はまだ寝てるよ。昨日の仕事の疲れが溜まったらしいね」
眠っている美香姉の横で、俺は正座になった。
ノートを広げて俺は愛理姉の正面に座る。
「ど、どうしたの? 将君?」
ぼーっとしていた俺はふと我に帰った。
愛理姉の正面に座って勉強するだけなのに、緊張感が凄い。
身体中が熱くなって、愛理姉を押さえつけようと考えてしまう。
……だめだ。自分の心をしっかりと持て。
白金将。お前は、自分の姉さんに乱暴が出来るのか? 無理だろ。
「顔、真っ赤だよ?」
愛理姉は俺の顔を覗き込んできた。
愛理姉の顔も赤いが、俺の顔はもっと赤くなっていると思う。
熱い。身体中が、半端なく熱い。
「……ねぇ」
愛理姉は俺の隣まで来て座った。
その手が、俺の膝の上まで動く。
「……!」
「……将君。集中できないみたいだし、昼寝しない?」
いつもの愛理姉じゃない。
直感が、何かの異変を俺に伝えてきた。
愛理姉の顔は赤くなっていて、息も荒い。
俺を引っ張って、二人とも床に寝そべる体制になった。
「将君、可愛いね」
愛理姉は俺との距離をさらに縮めてきた。
愛理姉の吐息が頬にかかり、俺の背中に腕が回ってくる。
あっという間に、俺は抱きつかれる姿勢になってしまった。
……マズイ。俺の感情が、そろそろ暴走してしまいそうだ。