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バレンタインデーの姉2018(2)(美香姉)

 一旦理子姉から貰ったチョコレートを自分の部屋に置き、居間へ。

 その途中の廊下に愛理姉が立っていた。台所に続く扉の前で通せんぼをしているような彼女は俺を見つけるといつものように挨拶――それでもちょっとだけ硬くなっているのをしてくれる。


「あ、将君、その、おはよう」

「おはよう、愛理姉」

「えっと、ごめん、今日は台所立入禁止だから、よろしくね!」


 視線を逸らしながらそう言った愛理姉はエプロンの下の大きな胸を揺らしながら台所に入ってドアを閉めてしまった。今日が今日だし仕方ないと思いながらも居間に入ると、数か月前に設置されてすっかりなじんだこたつの中から美香姉が上半身だけを出してカーペットの上に転がっていた。

 いつものように眠そうな彼女だったが、俺が部屋に入ったとなるとほんの少しだけ身体を動かしてこたつのスペースを空ける。丁度、一つの辺から二人が入ることが出来るように。


「美香姉、おはよう」

「……おはよう」


 少し灰がかった短髪の隙間から美香姉の大きな丸い目がこちらを見て来る。

 そこまでされて無視出来るはずもなく、俺は美香姉の隣のスペースに座ってこたつの中に足を入れた。次第に少しずつだらけたくなってきてしまい、美香姉と同じように俺も横になってしまう。

 すると、美香姉は隣で寝転がった俺に正面からくっついて来た。胸元にぴたりと張り付いた彼女はそのまま背中に腕を回し、張り付くようにして動かなくなってしまう。


「美香姉?」


 問いかけるもすぐには反応が無い。

 少しの間彼女の返答を待っていると、十秒ほどしてぽつりと美香姉が答えてくれた。


「撫でて」


 胸元にうずめている顔が少し上がっていたから見ると恥ずかしいのか頬を染めてしまった珍しい表情を窺うことが出来た。普段は無感情でツンとしているだけかこの表情を見た俺は美香姉の言う事に従いたくなってしまい、彼女を抱きしめてしまう。

 ゆっくりと頭を撫でると嬉しそうに美香姉が腕の力を緩めた。彼女の触り心地の良い髪越しに優しくゆっくり手を動かすにつれて彼女の身体から強張りが抜ける。そうしているうちにすっかり骨抜きにされてしまったようだ。まるで人形のように美香姉は動くことをやめ、こちらのされるがままになっている。


「将……」


 美香姉が上目遣いで見つめてくる。

 ああ、これは罠だ、こうやって断れないようにしてからお願い事をするんだ、そう身構えようとしても、いつの間にか美香姉の愛おしさを再認識していた俺には抗う事が出来ない。


「キス」

「わかった」


 少しこちらより背の低い美香姉に配慮して、優しく唇を重ねる。

 力が抜けていたのはこちらも同じようだった。美香姉と二人で無気力に漂うような心地よさの中で倒錯した愛を確かめる。目を閉じて没頭している彼女の姿がもっと狂わせた。


「美香姉、好きだ……」

「ぁっ」


 そっと彼女の両肩を支え、こちらから攻撃を仕掛けるように唇を奪い直す。

 最初こそ驚いたようだったが美香姉の目は次第に口内の快楽に蕩け始め、遂には彼女の方からも求め始める。お互いに舌を絡ませ、甘い味のする汁を交わらせて色事に夢中になった時のあの発情した顔を見せあう。

 もっと欲しい、こんなんじゃ足りない、彼女の目がそう言っている。お互い様だった。


「将……!」


 今度は美香姉が俺の身体を押させる番になった。

 完全な受け身に徹した今の俺はもう美香姉のなすがまま、普段の姿を捨てて欲に忠実になった彼女を止めることは出来ず、ちょっとばかし乱暴に口の中を犯され続ける。でもそれが気持ち良くて、美香姉が求めてくれていることが嬉しくて、抵抗できない。


「んっ……はぁ、あぁ……んんっ、はむっ」

「ちゅ、はん、はぁ、むっ、ちゅ……」


 止められない。もう、美香姉の全てが欲しくて仕方ない。

 美香姉も同じ事を思っている。俺と美香姉の間では、隠し事なんで出来る訳がない。


「美香姉……!」

「将……!」


 肩から、美香姉の手が少し下へ下りた瞬間だった。

 居間の外から足音が聞こえ、俺と美香姉ははっと現実に引き戻されてこたつでうつ伏せになってしまう。そのまま部屋に入って来るかと思えば、その足音は何を思ったのか引き返して行ってしまう。恐らく、百合姉が起きたのだろう。


「……フー」


 人差し指の関節を口に含み、美香姉が頬を染めたまま長く息を吐く。お互いにまだ心臓の鼓動は収まっていなかった。だがもう先程の行為に戻ることは出来ない。

 美香姉はちょうど見えない位置に置いていた小袋を手に取ると、何も言わずにずいとそれを渡してきた。綺麗にラッピングされたガトーショコラだった。


「……好き」


 美香姉のその一言。

 お菓子を受け取っても言葉を返せずにいると、戸が開いて百合姉が部屋に入って来た。


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