白金家へ 1
最初、俺は信じられなかった。
可愛い姉さんたちと、あんなに楽しい生活を送ることになるなんて。
四月上旬。どれくらい経ったのだろうか。ipodで理子の曲を流しながら、重い荷物を肩に下げて歩いていた。休憩のため、公園にある備え付けベンチに重い荷物を一旦降ろす。
「遠いな、あの家」
片手には一枚の手書き地図がある。それには、これが自分たちの家だ、と書かれてあった。差出人は自分の実の姉。会ったことはなかった。
「姉ちゃんと二人暮らしか……」
差出人の欄に書かれている、「白金美香」という名前。
今まで自分の姉の存在を知らなかった。両親は交通事故で他界したと聞いている。唯一の血族だと思っていたおばさんは病院で寝たきり。今までの生活はつまらなかったため、余計に気持ちが高ぶっていた。
曲が終わったところでipodの電源を切り、カバンにしまう。俺は荷物を持って再び歩いた。
「しっかし、本当に遠いな。どれくらい歩かせる気だ」
まだ高校生だから車で行くわけにもいかない。そもそも持ってもいないんだが。そう思いつつ数十分歩くと、だんだんどの家かが見えてきた。
「あれか?」
時計を見ると午前10時。結構歩いたな俺。そんなことを考えながら、俺はその家を見つめる。予想が正しければ、あれが姉さんの家。
「あれだ。そうだ」
地図に書いてある所と同じ所に、一軒の家があった。二階建てで、結構広い。ここに自分の姉が住んでいるのだ。……にしても、これから二人暮らしするにあたっては大きすぎないか?
「車? ……手紙には、16歳って書いてあったのに」
家の前には結構かっこいい車が置いてあった。確か、日産の黒のGT‐R。車を買えるなんて、金持ちなのだろうか。
「まあ、中に入るか」
ドアの前に立つ。……何故だろうか。緊張する。空気が重い。
「……大丈夫だ。中にいるのは自分の姉だから」
インターホンのボタンを押すと、家の中で物音がするのを感じた。家の中から足音が聞こえてきて、嫌でも俺の緊張は高まる。間違っていたらどうしよう。そんな事も考えたが、悪い考えは振り払う。今、自分の姉が出てくると思うと、何だか不思議な気持ちになった。
ドアが、ゆっくりと開いた。
「……誰」
ドアを開けた人物は、短髪で少し俺より背が小さい、綺麗な女の子だった。周囲にミステリアスな雰囲気を漂わせていて、俺の瞳を彼女の鋭い視線が貫く。この人が……美香さんなのか? そう思って見ていると、美香さんのまんまるい目が、脳裏に焼き付いて離れなくなってしまった。
「あの……手紙、受け取ったんですけど」
俺は手書き地図がついた手紙を女性に見せた。その手紙を見た彼女は、口の端で笑みを作る。彼女の口が開いた。
「……名前」
「あ、白金 将です」
俺の苗字である、白金。それを聞いて確信したのか、彼女はうなずいた。
「入って」
美香さん? は後ろを向いて、奥の部屋の前へ行った。俺は靴を脱いで揃え、後を付いていく。
「私はトイレに行くから、先に入って」
彼女はそのままトイレのあるだろう方に行ってしまった。意を決して、美香さんが示していたドアを開ける。何が起きるかわからんぞ。