没案:引きこもりニートの姉
白金家の構想メモがパソコンの奥深くに眠っていました。
その中のネタを一話だけの小話にしました。
ハロウィンに関係なくてごめんちゃい。
「早く晩御飯を持って来なさい」
「はいはい」
理子姉が事務所に稼ぎに出ている間、百合姉は働くこともせずに家でネットサーフィンの生活を送っている。最近は通販サイトで安く買って高く売る趣味を始めたらしいが、百合姉のそれは収入と言うには程遠い。
それでも百合姉が頼んでいるのなら俺に拒否権があるわけでもなく。頼まれた通りに晩御飯をお盆に乗せて部屋のドアを叩く。中から声がしたので入った。
「遅いわよ」
「す、すいません」
現在進行形でオークションサイトを見ている百合姉は、めったに外に出ることもないため普段はだらしない服装をしている。今日もそうだった。大分長い間着続けている服はヨレヨレになっていて、彼女の豊満なバストのラインを隠すだけの丈夫さは残っていない。洗ってはいるのだがどうも戻らないようだ。下にはジャージを着ていて、その姿はもう干物女そのものである。しかしその中に艶めかしさがあるのが百合姉だった。
「なーに見てるの?」
「いやな、なんでも。それじゃ、俺はみんなとご飯に……」
「行っちゃやだぁ」
テーブルの上に盆を置いた俺は部屋から出ようとしたが、普段発揮されることのない瞬発力を百合姉が使ったので壁に抑え込まれてしまった。目の前には不敵な笑みを浮かべた百合姉。そしてだらしない胸元。よく見ると下着のような紐が見当たらなかった。触ったら気持ちよさそうなお山をこちらの胸元に押し付けながら、百合姉は上から見下すように言う。
「興味あるんじゃないかしら? さっきからずーっと『ここ』ばっかり見ちゃって」
「すいませんでしたぁ」
働かないくせにこういう所だけは立派になった物である。もっとも彼女の過去はあまり知らないのであるが。百合姉はこちらの頬に手を当てて顔を近づけてくる。
「今、胸だけは立派なんだなって思わなかった?」
「い、いえ」
「本当に?」
顔に甘い息がかかる。
「……思いました」
百合姉はその答えを聞くと、くすっ、とこらえきれなくなったように笑う。
「カマかけただけなのに、正直なのねぇ」
「ひっ」
「こんなに大きくしちゃってね……お姉ちゃんのことを慰み物にしてるんだ」
全く反論が出来ない。何か言おうとしたらすぐに500倍返しで返ってくる。
百合姉は今度は背中に腕を回すと、逃がさないぞ、と言いたげにきつく抱きしめてきた。そのままベッドの上まで輸送され、そこからは彼女の独壇場になってしまう。
「このベッド、将が好きな匂いにしたのよ」
「うう、これは……」
ベッドから百合姉の匂いがしてくる。いつも通りの香水のような匂いもするが、彼女の身体自身から発せられてくるあの匂いも布団に染みついている。これも、一日の大半を布団の中で暮らしている彼女ならではであった。シーツには汗のような物も染みている。
上から二人ごと布団をかぶせられ、中で百合姉ときつく抱き合ってしまう。これは無理だ。耐えられん。全方向から百合姉の匂いに包まれながら、百合姉の策略に嵌って行ってしまう。それが一種の快感になってしまっていた。彼女に転がされることが至上の喜びであることをこの共同生活で身体に刻み込まれてしまっていた。
「今、そこを楽にしてあげるから……」
「ちょっと待って百合姉」
「なあに?」
暗い中、今は百合姉の顔しか見えない。そんな時百合姉の後ろにあった手を誘導された。気が付くとあの柔らかい物がしっかりと掴まれていて、残っていた一かけらの理性も全て吹き飛ばされてしまう。そして。
「ふふ。それじゃあ、メインディッシュを頂こうかしら?」
台所に空になったお椀と皿を盆で運ぶと、丁度愛理姉が皿洗いをしていた。
「遅かったじゃん。なにかあったの?」
「いや、ちょっと、ね」
百合姉の事に関しては愛理姉はもうそっちの目でしか見ていない。引きこもりニートで愛理姉をそこまでに仕上げることの出来る百合姉が本当に恐ろしい。
「……あんまり百合姉の所に行っちゃだめだからね」
「わかってるわかってる」
そうして台所を出る。気が付くと足は百合姉の部屋の方を向いてしまっていた。
「おっといかん」
自分の部屋に行こうとするが、立ち止まってしまった。そして、また百合姉の部屋に向かって歩き出してしまう。
どうやら癖になってしまったようだ。
 




