潜る姉 3
※前回に引き続き将視点
夕食。何だか理子姉とは気まずい感じになってしまった。結局何があったかはよく覚えていない物の、何とかそこまでは到達しなかったことだけは確かである。いやしかし、こちらに作為はなかったにしろ、あれを口にしてしまっているため、彼女とは微妙な空気が流れている。百合姉と愛理姉、美香姉は、そんな俺と理子姉の間柄など知らず。
しかし、それでも食卓の会話はあるわけで。適当な事を話していたらそんなこともなくなった。今までのことが夢ではないかと思う位綺麗さっぱりとなくなっている。
夕食を食べた後、美香姉は背中に張り付いてきた。しばらく彼女を背負ったままうろうろ歩き回っていると、2人きりになった所で彼女は後ろから囁く。
「……昨日、理子姉の部屋、行った」
「どうだったんだ?」」
「理子姉の布団にもぐった」
その言葉を聞いた時、理子姉がどうして今日布団にもぐって来たのかが分かったような気がした。姉弟のせいでもあるかもしれないが。そして、しばらく背中に美香姉を背負ったまま、今日何をしようか考え出す。その時丁度、台所から皿洗いを終えた愛理姉が部屋に戻っていくのを見た。これである。
「将?」
「眠くなってきたな」
そう言うと美香姉も眠くなったのか、欠伸をした後におやすみを言った後自分の部屋に帰っていく。しばらく時計をぼんやり眺めた後、俺は愛理姉の部屋に行くことにした。
愛理姉の部屋は暗い。もう眠っているのだろう。部屋にこっそりと侵入した後、片隅で音を立てない様にじっとする。部屋に入った直後は「むむっ?」と寝言のような声を上げたが、しばらくじっとしていると、気のせいと思ったのかもう一度眠りにつく。
そして目が慣れた辺りで足音を立てない様にして愛理姉のもとに向かう。愛理姉の布団の足元をそっとはがし、そこから中にするすると入っていった。一度頭を突っ込めばもう前に進むしかないので、どうにでもなれと愛理姉の腰辺りに到着した。
「……うぇ?」
愛理姉が何やら起きたようだ。面白いので少し意地悪をしてみる。がしっと彼女の腰に抱き着くと、びくっと震えたまま動かなくなってしまう。おおっ、怖がってる。
「い、いやぁ、なんかいるよ……」
愛理姉は動こうとしない。寂しいので少し手を這わせることにした。彼女の腰の辺りをそっと撫で上げる。おい、俺は何をしているんだ。
「ああっ、おばけさんにえっちなことされちゃうよぉ」
彼女の声に色気が追加される。おばけさんだと勘違いしている愛理姉がかわいい。いや、本人は本当におばけに襲われていると思い込んでいるのだからあまり言えないが。
やることもなくなってしまった。愛理姉の腰のあたりに張り付いたまましばらく経つと、愛理姉の手が頭にもさっと乗っかる。手は若干震えていたが、頭の形を探っていると、愛理姉が何やら気が付いたように言う。
「……将君?」
「ぬ、分かったか」
愛理姉の胸元にまで顔を出す。彼女は涙目になっていた。中にいたのが俺だということが分かると、愛理姉は今までの恐怖を消し飛ばすかのようにぎゅぅぅぅと抱きしめてくる。
「こわかったよぉ!」
「ご、ごめん、愛理姉」
「将君のばか!」
よほど怖かったのだろう、愛理姉は全く離してくれない。彼女の胸が顔にぐぐぐっと押し付けられ、その心地よい感触につい眠気がやって来てしまう。しかし、眠ろうとしているこちらを察知したのか、愛理姉ははわわっと反応して布団の中に潜ってくる。
「先に寝ちゃ駄目だよぉ」
「あ、愛理姉、わかった……む」
愛理姉は眠気覚ましの代わりにキスをしてきた。いつもよりも強めであった。布団の中であるため周りは良く見えなかったが、うっすらと愛理姉の不安そうな目が見える。そんな彼女がとても愛おしい。今度はこちらが彼女をぎゅっと抱く。
「お姉ちゃんを驚かせるわるい弟にはおしおきするんだから」
そう言いながら上目づかいで見つめてくる愛理姉。しかしその声は若干ながら震えていた。本当に怖かったんだな、と彼女の頭を撫でると、ぼうっと顔を赤くしたような様子で頬を胸元に摺り寄せてきた。それによって彼女の大きな胸も押し付けられるわけで。うん、理子姉よりは確実にでかい。そう思っていると、謎の勘で察知されてしまう。
「私の事だけ考えてよ」
「す、すいませんでした」
「おこるよ?」
流石にこれ以上愛理姉を不安にさせるわけにもいかないため、彼女を抱いたまま見つめてみた。しばらくじっと彼女の目を見ていると、向こうは照れたようにそっぽを向く。
「ごめん、愛理姉」
「……ゆるしてあげます」
しばらく経つと、愛理姉はスヤァと眠りについていた。こちらも眠くなったので目を閉じると、愛理姉を抱いているせいなのか、いつもよりも早く眠気が襲ってきた。




