大切な姉 3
愛理からの電話を受けて、私はおばさんの病室へと向かっていた。
「白金百合です」
病室のドアを開ける。
「百合。ちょっと聞きたい事があるんだ」
「聞きたい事?」
おばさんは、急に真剣な顔になるとこう言った。
「百合は、将とどういう関係だ?」
「私は……」
一瞬言葉が見つからなかった。
姉弟。これが、一番ふさわしい答えだと気づくのに時間がかかる。
「……姉弟」
「そう。答えが一瞬で出せなかった百合は、姉弟の域を超えようとしている」
「……!」
喉が一瞬で干上がった。
おばさんは私の目を見て、厳しい口調で言う。
「姉弟では、やっちゃいけない事があるでしょ?」
「……」
脳内が真っ白になった。
何も考えられない。何も、自分でする事が出来ない。
「そこはいい加減直しなさい。いくら将の事が好きでも、それはだめ」
「……」
「返事は?」
「……はい」
何故かは知らないが、私はそう言わされる事に屈辱を覚えた。
心の中で、何かがおばさんの言葉に反対している。
私は将と、いつまでも一緒にいたいだけなのにどうして――
病院を出た私は、涙目になっていた。
将に会いたい。将を抱きしめたい。将と一緒に寝たい。
いろんな感情がぐちゃぐちゃに織り交ざるが、おばさんの言葉が私を止める。
姉弟ではやっちゃいけない事がある。
口で言うのは簡単だ。
だけど、実際にその通りに動くとなると、もう私は耐えられない。
どうやら、私はもう姉弟の域を超えてしまったようだ。
「ただいま……」
百合姉が帰ってきた。
俺は玄関へ出て、百合姉の顔色を伺う。
「どうしたんだ? 百合姉」
「将……」
いつものノリなら、百合姉は俺に抱きついてくるはずなのに。
帰ってきた百合姉は、様子がおかしかった。
「何でもない。それと、私は今日の晩御飯はいいから」
そう言うと、百合姉は自分の部屋へと行ってしまった。
……何かあったのかな。心配だ。
夜、俺は自分のベッドで寝転んでいた。
「……姉さんたち、どうしたんだろ」
夜になるといつも来るはずの百合姉も来ない。
理子姉も何だか忙しそう。
愛理姉はいつもと様子が違うように見える。
美香姉も変だ。
「考えすぎなのか」
布団の中に入り、目を閉じる。
自分の中で、何だか制御できない感覚がこみ上げてきた。
何だろうな……そう。自分のものにしたい、ていう感じのあれ。
「……」
脳裏に何かが引っかかる。
俺が部屋から出て行くときに見えた、泣いている百合姉。
そして、今こみ上げてきているこの感覚。
訳の分からない、自分でも理解できない感情。
理性を吹き飛ばしかねない、とても押さえが効かなそうな欲望。
「……!」
頭の中で、全てが一つになった。
パズルのピースを一つ一つ当てはめていくかのように、答えが出る。
「……俺は」
俺は、姉さんたちの事が好きなんじゃないか?




