王様ゲームのこっくりさん 4
翌日。千秋さんは店の整理のため一旦家に帰った。愛理姉と希さんはごはんを作るために台所に立っているようである。百合姉と理子姉はまだ目を覚まさないようだ。なぎささんは起きているようで、うとうとしている美香姉を背負いながら、机にぐだりとしている。
昨日のこっくりさんからどうもみんなの様子がおかしいようであった。牛乳でも飲もうかと思って台所に行くと、そこで、愛理姉と希さんが絡んでいるのが見えた。棚の陰からこっそりと見守ることにした。
「んんーっ、希さんも大きいね」
「ひゃぁっ!? ああ、愛理さん、朝からそんな……あぁ」
あー、家事が全然進んでないこれ。朝ごはんが出来るのはちょっと時間がかかりそうだ。朝から台所でこういうことは、まぁあり得ないことではないが、でも空腹的に辛い。
少し離れたところから足音を立てながら歩くと、台所で二人はびくんとなり、朝ごはん作りに戻る。そこに丁度現れた、という形になった。
「愛理姉ー、牛乳残ってる?」
「牛乳……うーん、あったような気が」
冷蔵庫の中を見る愛理姉。無かったようである。少し困った顔になった彼女はこちらをちらちらと見てくる希さんの後ろに立つと、ぎゅっと抱いてこちらの方を向いた。
「ないよ」
「あ、愛理さん、これって」
「愛理姉、どういうこと?」
愛理姉は顔をほんのりと赤くしながら言う。
「……希さんのを」
「そ、それは、愛理さん……!?」
希さんの顔が一気に真っ赤になり、そこから蒸気を上げてしまった。愛理姉も顔を赤くしていて、もうどっちが恥ずかしいのかよく分からない有様である。やんわりと断りを入れ、俺は牛乳を諦めることにした。飲まないと死ぬ訳でもなかろう。
しかし、牛乳の代わりに、もう帰ってしまった千秋さんの事が頭をかすめた。今彼女は何をしているのだろうか。そんなことが突然頭に思い浮かぶ。
「ご、ご飯、作りましょう」
「そうだねー」
二人は今度は真面目に働きだす。起きてから結構時間が経っていた。
なぎささんも希さんも自分の家に帰り、俺と美香姉と愛理姉は学校の課題を終わらせていた。賑やかだった家が静かになったせいか、何だか物寂しいような気がする。難しい数学の問題と格闘していると、台所から理子姉が冷たい麦茶を持ってきてくれた。
「頑張ってるね、みんな」
「むずかしいよぉ」
愛理姉が鼻にシャーペンを乗せてため息を吐いた。美香姉は無言のままカリカリとペンを走らせていたが、理子姉から麦茶を受け取ると、それをくいっと飲んだ後にぼうっとする。理子姉が美香姉の隣に座ると、美香姉は目を閉じて理子姉に身を寄せた。
「……うう」
「美香ちゃん?」
理子姉が美香姉の頭を撫でていると、美香姉が突然目を開き、こちらをじっと見つめた。
「……将」
「何だ?」
「まだ、終わってない」
美香姉が平らな口調でそう言った。しばらく何のことを言っているか分からなかった。愛理姉と理子姉も首をかしげている様子である。美香姉はそんな俺たちには何も言わず、また目を閉じて理子姉に寄りかかる。その時、理子姉がびくんと震えた。
「ああぁっ」
「理子姉?」
「お姉ちゃん?」
理子姉は美香姉と地面に転がると、息を荒くしながら何かに耐えるような様子を見せた。自分自身の身体を抱くように倒れた理子姉は、そのままころころと転がるが、一向に元に戻らない。しばらくして、愛理姉の顔が赤くなり始める。
「なんだか……私も……んんっ」
愛理姉は机に突っ伏しながら、必死にペンを持って勉強に戻ろうとするが、何かに耐えられなくなったのか、その場で震えながら動かなくなってしまう。
「美香姉、どういうことだよ」
そう声をかけるが、彼女からの返事はない。何か訳の分からない物にもだえている理子姉と愛理姉を残して、俺は何故か家を出て自転車に乗っていた。




