王様ゲームのこっくりさん 2
こっくりさんをみんなで呼んでいると、突然美香姉が動かなくなってしまった。
「美香姉?」
俺の問いに美香姉は答えない。彼女の目は虚ろになっていて、人形の様であった。
「成功したみたいね。それじゃ、後はよろしくお願いします」
百合姉は美香姉に割り箸の束を渡した。美香姉は何も言わないままそれを受け取ると、手の中でじゃらじゃらと動かした後、ひょいと差し出してくる。そして、不思議そうに見つめるこちらに静かな声で言った。
「3番と4番がくっつく」
愛理姉からひっ、という言葉が漏れた。みんなが美香姉の持っている割り箸を一本ずつ選び、引いていく。そして、その後に理子姉と百合姉がむーっと唸った。
「3番は私だぁ」
「じゃあ、理子は私とくっつくのね」
ぴとっと二人仲良く並んでくっつく。至って普通の王様ゲームだが、美香姉の様子がおかしい。百合姉はふふっと笑った後に説明をした。
「今の美香ちゃんにはこっくりさんが憑りついてるの。あとはずっと王様役をやってもらうわよ」
「あぁ、そういうことか」
「それに、こっくりさんは誰が何を引くかはもうわかってるのよね」
その言葉で美香姉と百合姉以外の人が固まった。聞いてねぇぜそんな物。
【6番と2番が恋人つなぎ】
割り箸を引いた後に反応したのは愛理姉と希さんだった。二人はもぞもぞと席を変えると、隣に座って手を恋人つなぎでつなぐ。二人が照れているのが何だか可愛らしい。雰囲気が出てきたため、みんなが次の指令をわくわくして待っていた。
【4番が5番の服を一枚脱がせる】
む、4番は自分であった。指令が指令だが従わないわけにはいかない。そう思っていると、千秋さんが何だか不服そうな顔をした。これはもしかして。
「わ、私の番か」
「それじゃあ千秋さんやりますよ」
「何でお前は乗り気なんだ……ううっ、来なきゃよかった本当」
今更後悔しても遅いですよ千秋さん。さっきまで来ていた上着を一枚脱がせると、千秋さんの白いTシャツが現れた。柄が女の子っぽいような気もするが、胸の主張が激しい。しばらくそれを見ていると千秋さんに頭をぼんと叩かれてしまった。
【5番が私に膝枕をする】
5番を引いたのはなぎささんであった。まさかの王様に膝枕をするという状態に彼女は少し戸惑っていたが、少し座る位置を変え、美香姉に膝枕をしてあげた。理子姉がむーっと唸っていたのはおそらく嫉妬から来るのか。考えてみればそれは理子姉の仕事だ。
【3番が2番を抱きしめてキスをする】
美香姉からの命令が徐々に過激な物になり始めたなと思っている時、反応していたのは先ほどの百合姉と理子姉だった。3番は理子姉が引いたらしい。理子姉は百合姉とくっついたまま戸惑っていたが、美香姉がきっと鋭い視線を向けたため、半ば脅されたような格好で百合姉を抱き始める。その時、百合姉は理子姉の胸に飛び込んだのち、ぱたんと床に倒れ込んでしまった。
「百合姉、頼むから起き上がって!」
「だーめ。こうしないと理子をしっかり抱いていられないの」
「そんなぁ」
「『王様の命令』なんだから、仕方ないじゃない?」
百合姉は理子姉の胸元に顔をうずめながら言った。受けに徹している理子姉がいつも以上に戸惑っていた。そのまま百合姉は何かに操られたように、顔をぼうっとさせて理子姉の口元に顔を近づける。理子姉は口を半開きにしながら、顔を真っ赤にさせて、それでも抵抗しようとしていた。だが。
「か、身体が、動かない……?」
理子姉の手首足首が何かに押さえつけられたかのように動かなくなってしまっていた。彼女がそれに戸惑っている間、百合姉と、とうとうキスをしてしまった。理子姉の腕は百合姉を抱くように動き、そして、二人は床に倒れながら、濃厚なキスをしながら強く抱き合う。理子姉の顔が徐々にとろけていっているのが見えた。
百合姉はキスをしながら理子姉と足を絡ませる。その様が、美しく、艶めかしい。
「んあ……百合姉ぇ……」
「理子……」
二人は最後に長いディープキスをすると、お互いの口から糸を引きながら、ゆっくりと唇を離した。どちらも少しぼうっとしているのか、顔は紅潮していた。そして、次の指令かと思いきや、理子姉が何かに気付いたように言い出す。
「百合姉から、身体が、離れない……?」
「こっくりさんのせいね。まだまだこうしてなさいってことかしら」
百合姉と理子姉はまだ抱き合ったままであった。理子姉がおかしくなりそうなのを尻目に、美香姉は淡々とした口調で次の命令を呟く。
【5番と3番は体が磁石のようになる】
5番は俺。3番が……あ、千秋さん。またですか。
「また将とか……あれ?」
千秋さんは割り箸を持ってつぶやいていたが、何故か徐々に身体を近づけてきた。何かに押されているように千秋さんと距離が縮まっていき、しまいにはくっついてしまった。最初は腕だけがくっついていたが、身体が少し動いた時、千秋さんと向かい合うような姿勢になってしまい、そのまま胸元同士がくっついてしまう。
「千秋さん?」
「いや、ちょっと待て、これは……」
離れようとしたが離れない。向かい合ったままくっついているため、千秋さんの顔が近い。離れようとしても離れない。磁石にくっついたようにぴったりとなってしまった。
「か、顔が近いぞ、将……」
「いや、千秋さん、これって」
頭がこんとぶつかっていたのを引き剥がしたと思ったら、今度は千秋さんとキスをしてしまった。そのまま口が離れてくれず、思わず千秋さんとディープキスをしてしまう。最初は嫌がっていた千秋さんだったが、しまいには背中に腕を回してくるようになっていた。
口の辺りを動かして接点を頬に変えた後、千秋さんがつぶやく。
「……腕も剥がれなくなってるぞ」
「あれ?」
「ああ、お前にくっついてる所がぁ」
突然千秋さんが高い声を出し始めた。……あ。
「もう、将君って意外とわかりやすいねー」
愛理姉がにやにやしながらこちらを見ていた。彼女の視線を追った先には。
「な、何でこんな形になったんだ将」
千秋さんが丁度またがるような感じでくっついてしまっていた。彼女が脚で腰のあたりをがっしりと固定してしまっているため、なんとなくその部分が当たるようになってしまっていた。いや、聞かれても知らんですよ千秋さん。
「そ、そんなこと言われてもですね」
「こ、この野郎……あぁ、さてはお前、喜んでいるな!?」
「いやいやいやいや」
千秋さんは何か勝ち誇ったように言って今度は額をくっつけた。顔が近い。
「なるほど、身体は正直なようじゃないか、将」
「そ、それを言っている千秋さんはどうなんですか」
「なっ」
突然顔を赤くしてしまった千秋さん。わっかりやすい。うろたえたことを隠そうと少し体をずらした時、また彼女は顔を緩めてしまう。そういうことなんですが。
「き、貴様……終わったら小指詰めてやるから、覚悟しておけぇ」
徐々に彼女に変化が現れ、声が力強い者から弱弱しく震えた声になっていった。しかも胸をたゆんたゆんさせて言うセリフじゃありませんそれ。顔を真っ赤にしてぼうっとしている千秋さんから強く抱きしめられたまま、またキスをしてしまった。
「んんっ、んんん……」
う、動けん。
 




