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不良品の姉友 2

 そうこうしているうちに落書きは希さんの身体のあちこちに出来た。顔の所には先ほどの「不良品」のみであるが、かえってそれが、彼女が人の扱いを受けてないような雰囲気をかもし出す。愛理姉からメイド服の替えを頂き、希さんがそれに着替えなおした後に彼女の姿を見ると、やはり首筋と頬の「不良品」が何とも言えない。死んだような目になっている希さんがまるで人形のように見えた。

「汚れてしまいました……ご主人様」

 そんな希さんを見ていると、もっと何かして彼女を虐めてやろうと思ってしまう。そうして考えた結論が、何とも残酷極まりないモノであったことには限りないが、それでも行動に移させようとしてしまった。いや、希さんが悪いんだ。こうやってご主人様におねだりをしてくる彼女が悪いのだ。悪い子にはお仕置きをしなくてはいけない。

「よし。そのまま百合姉にお茶を出してこい」

「こ、このまま、ですか……!?」

「このままだ」

 不良品はその場でへたりこむが、無理矢理立たせ、部屋の外に締め出した。足音が遠ざかった後、きちんと仕事をしているか確認するため、後ろから付いていく。台所に現れたそれを見て愛理姉は少し驚いた顔をしていた。

「あれ、希さん?」

「その……ご主人様の命令で、お茶を……」

 何だか愛理姉がうらやましそうに見えたのは気のせいだと願いたい。それは台所で紅茶を入れると、それをお盆に乗せ、百合姉の部屋へと向かっていった。道中美香姉にすれ違った時恥ずかしそうな反応をした。それでも進もうとする姿は可愛く、滑稽でもある。そのまま百合姉の部屋の前に立ち、ドアをコンコンとノックした。中から百合姉の返事が聞こえ、彼女は中に入る。

「あら……これは傑作ね」

「ご主人様に、命令されて、お茶を……」

 すっと続いて部屋の中に入る。椅子に座っていた百合姉はしばらく不良品メイドの姿を眺めた後、立ち上がって彼女の腕を取る。紅茶を受け取った後、百合姉は一口飲んだかと思えば、笑っていた顔を真剣な物に変えて紅茶をそのまま机の上に置いた。

「不味いじゃない」

「も、申し訳ございませんでし――」

「喜んでるんじゃないわよ」

 百合姉がメイドを壁に押し付けた。「かわいそうな」奴隷はなすすべもなく、百合姉の毒牙にかかってしまう。それを助けるわけでもなく、ご主人様は遠くから見守ることにした。たまに助けを求めるような目で見てくることもあるが、あえて、見殺しにしておく。

「なかなかいい感じに仕上がってるわよ、将」

「部屋に来るなり『わざと』紅茶をこぼして脱ぐ奴だ。手をかけるまでもない」

 百合姉はくすっと笑う。

「将も面白い事をするようになったのね」

「ふぇぇ……」

 獲物をしっかりと捕らえた百合姉は、そのままメイド服を脱がし、あの下着姿に戻させた。体中に書いてある「役立たず」などの言葉が飛び込んで来て、百合姉は面白そうに笑った。「役立たず」は見られてしまったことに恥じらいを感じているのか、人間らしくもじもじと身体を動かしている。

「希がそんな人だったなんて、流石に私も知らなかったわ」

「ゆ、百合さん……」

「馴れ馴れしく名前を呼ぶんじゃないわよ!」

 百合姉はそのまま希さんに強烈なビンタを飛ばした。バチンと明らかに痛そうな音が聞こえてくる。流石に止めようかと思っていたが、希さんの顔をよく見ると――喜んでいる?

「希はこうやってスイッチが入る人なの。それを見抜いた将は才能があるってことね」

「そ、そうなのか」

「だから、今は、彼女に何をやってもいいの」

 希さんの目がうるうるしていたが、口元は笑っているように見えた。


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