言い出せない姉友 1
休日、たまには一人になりたかったので、繁華街をぶらぶら歩くことにした。普段行くことのないカフェに立ち寄ったり、珍しく一人で買い物をしたりなど、休日を思い切り満喫していると、見たことのある人が立っているのを見かけた。
「あ、なぎささん」
「将さん?」
プライベートだったのだろう、ラフな服装で道端に立っていたなぎささんは、こちらの姿を見つけると、向こうから歩み寄ってくれた。誰かを待っていたのだろうか。
「待ち合わせですか?」
「いえ、たまには外に出る休みもいいなって」
「自分もそうですね。姉さんと一緒にいると、やっぱり疲れるときは疲れるので」
それを聞いたなぎささんはくすっと笑った。理子姉の事をよく知っている彼女は、家でどうなっているのか大体予想がつくのかもしれない。美香姉や愛理姉の事も多分知っていると思うけれど。
そんな風になぎささんとお話をしていると、後ろから聞き覚えのある男の声が聞こえた。
「いよう、年上ハンター」
「その名前で呼ぶんじゃねぇ」
健一であった。その隣には何だか女の子もいるようで。前に見た健一の彼女だろう。
「友達ですか?」
「クラスメイトです」
「初めまして、健一です。こいつは俺の彼女です」
前に写真で見たようなかわいらしい彼女が、健一の腕にぴとっとくっついていた。結構胸もでかい。健一はご満悦だろう。そんなことを考えてると、健一がにやにやとこちらを向いた。
「それじゃ、俺はこれからかわいいかわいい後輩とデートなので。そっちも仲良くなぁ」
そう言って健一とその彼女は、二人で仲良くくっつきながら繁華街の人並みに消えていった。俺となぎささんは二人残された。健一の彼女かわいかったなぁと思い返していると、それが不服なのか、彼女が後ろからぎゅっと抱きついてくる。
「私の事だけ考えていてください」
「す、すいませんでした」
「――年下の人よりも、年上の人が好きでしょ?」
そうささやかれて赤面してしまった。
なぎささんと二人でいろいろ話した結果、今日は一緒に行動することになった。彼女と水族館に行くことになり、一緒に電車に乗り、水族館に近い駅まで向かう。その道中、たまたま人が多い時間に当たってしまい、電車の中でなぎささんと密着することになった。
「将さん、もう少しそっちに」
「無理です……うおあぁ」
人に押され、さらにぎゅぅぅとなぎささんの方に押し付けられる。彼女は目線を下に向けたまま、押されてきた俺を、こっそりと腰のあたりを掴んで引き寄せた。周りの人がゆらゆらと揺れる中、彼女の大胆な行動に驚いてしまう。
「動かないでください」
「は、はい」
電車の音で聞こえるか聞こえないかぐらいのなぎささんの声に答える。周りではスマートフォンをいじっていたりざわざわと何かを話していたりで、こちらの事には何も気が付いていない様である。それを見て、なぎささんはすっと胸元に飛び込んできた。彼女の身体が密着する。彼女の服は決して薄着ではなかったが、彼女の体のラインが分かった。
「なぎささん……」
「静かに」
ぴしっとたしなめられ、渋々黙った。電車が一回揺れる度に彼女の身体がぎゅっとくっついてくる。理子姉の前では絶対にしないような彼女との密着行為が、何だかいけないことをしているような気分にさせた。周りの人にいつ感づかれるかも分からないまま、なぎささんとくっつき続ける。そうしている間に電車は止まり、人波が動いた。
なぎささんは何事もなかったように離れると、そのままスタスタと電車を出て行く。慌てて後ろを追いかけた。彼女の身体の感触が、まだ、生々しいままに残っていた。




