友達込みの避暑地探訪 1
真夏の昼、東北自動車道を二台の車が走っていた。片方には姉さんたち四人が乗っていて、もう片方には、千秋さんとなぎささんと希さん、そして俺が乗っていた。運転席に座っているなぎささんの目は輝いている。何故かと言うと、今向かっているのはなぎささんの故郷である秋田県だからだ。
この夏の暑さを乗り切るために東北を目指そうということだ。なぎささんの話だと、秋田は盆地だからあまり涼しくはないらしい。それじゃあ避暑地じゃないじゃないか、と言うと、でも都会の蒸し暑さはないですよ、と笑顔で答えてくれた。きっと彼女自慢の故郷なのだろう。
助手席には希さん。後部座席には俺と千秋さんが座っていた。外の風景をぼうっと眺めていると、少しずつ千秋さんが俺に乗りかかって来た。最初はあまり気にしていなかったが、徐々に横倒しになってくる。わ、わざとだこれ。
「……あの、千秋さん?」
「何だ?」
横目にジロッと見つめられて返答に困った。千秋さんに狭いことを伝えると、彼女は俺の耳元でそっと囁いた。
「好きなんだろ? こういうの」
千秋さんは俺にさらにすり寄っただけでなく、その張りのある大きめの胸を俺の腕に押し付けてきた。このままだと千秋さんのペースに飲み込まれる、とじっと耐えるが、そんな俺を見たのか彼女は、ほれほれとさらに強く押し付ける。ついにやせ我慢が限界に到達し、千秋さんの方に体を傾けてしまった。
千秋さんは俺の首筋の匂いを嗅ぐと、背中に腕を回して俺を優しく抱く。そして満足そうに笑った後、回した方の手で俺の頭を、まるで奴隷を可愛がるかのようにゆっくりと撫でた。
ちなみになぎささんは運転に集中しているのか気づいていない。希さんは気づいてはいるものの、はわわ、はわわと言葉に困っていた。二人から何の助けも得られない俺は、このまま千秋さんの作ったレールを進み続ける。彼女の甘い息が鼻をくすぐった。その匂いがたまらない。虜になってしまう。
「千秋さん……」
「してほしいか?」
その言葉になぎささんが反応した。
「千秋?」
「私は将に聞いているんだ」」
「ここは私の車ですけど?」
なぎささんの言葉に構うことなく、千秋さんは俺の顔を見つめた。彼女の赤髪が日光で輝く。片手で俺の頬に触れると、口元からちらと舌を出した。その様子をミラーで見たのか、なぎささんが希さんに言う。
「希さん、止めてやってください」
「は、はいぃ」
「誰が止めるって? あぁ?」
「ひぃぃぃぃ」
振り向いた希さんの目を、千秋さんの鬼の眼光が貫いた。希さんはびくついて使い物にならなくなってしまい、助手席でがくがくと震える。ため息を吐いたなぎささんは、深呼吸をした後真剣な目になった。
邪魔者がいなくなった千秋さんはと言うと、逃げ場のない俺に唇を近づけてくる。このまま彼女の物になるのも悪くはないと思い始めていた。現に背中に手を回され、密着している状態では、彼女の魅力を拒絶することは出来ない。だが、なぎささんや希さんに何だか申し訳ない。でも……
その時、千秋さんが「吹っ飛んだ」。
「千秋が窓ガラスに頭をぶつけて動けてないみたいね」
「そうだねー」
「将君は大丈夫なの?」
「……そうみたい」
なぎささんの車の後ろを付いて行く四姉妹一行。突如目の前の車で弟が絡まれたかと思えば、千秋さんが突然吹っ飛んだのだ。原因は前の車が横にずれた、すなわち、ドリフトである。車を運転する次女はそれを間近で見ていた。
「なぎさちゃん、ドライビングテクニックは凄いからねぇ」
「……今更だけど、私たちの周りに普通の人っていないのかしら」
「多分将君の事だと思うよ」
「……それ」




