お手伝いの姉 1
金曜日、学校からの帰り道で美香姉がつぶやいた。
「……お姉ちゃんの店で働く?」
「どうしてだ?」
「家庭科の課題」
そういえばそんなものがあった。学校の家庭科の課題として、自分の親・姉弟を手伝え、といったものがあった。無かったら家事でも大丈夫だ、と先生は言っていたが、美香姉は百合姉のカフェに行こう、と決めたのだろう。
愛理姉は先に帰ってしまったため、美香姉とは二人きりである。愛理姉には悪いけど、百合姉のカフェで少し働かせてもらおう。希さんも元気にしてるかな。そう言えば、会うのは結構久しぶりな気がするなぁ。
「……将?」
急に美香姉が俺の顔を覗きこんできた。す、すいません。
数日後、百合姉の店のお手伝いになることが決まった。美香姉はレジ打ちで、俺はどうやら裏方での力仕事とかになるらしい。百合姉の人使いは荒い物だと痛感させられた。だが、嫌ではない自分もいて。
それもそうで、裏方とはいえど、たまに希さんとお話が出来るのだ。百合姉とも出来るが、久しぶりに希さんと話すため、彼女との会話は楽しみである。
裏方で段ボールを空ける仕事をしていると、希さんがやってきた。
「あ、将さん」
「希さんですか」
「……おつかれさまです」
そのまま希さんはピューと走り去ってしまう。ちらと真っ赤な顔も見えた。前からの恥ずかしがり屋は全く治っていないらしい。だとしたら何故接客業についているのか疑問ではあるが、あえて突っ込まないことにする。
サンドイッチの食材が入った段ボールを開けていると、今度は百合姉がやって来た。何だがご立腹の様である。俺何か悪い事しましたか。
「……ゆ、百合姉?」
「何だか希の様子がおかしいのよね」
「希さんは恥ずかしがり屋だからな」
「いい?」
急に百合姉は俺に顔に近くに人差し指を立てると、囁くように小さな声で俺に言う。鋭い目に捕らえられてしまい、体全体の動きが止まる。
「仕事をするんだったらきちんとしなさい。……それとも、希といちゃいちゃしに来たのかしら?」
「い、いや、そんなつもりはまったく」
「まぁ、客はあまり来ないと思うけれど、分かってるでしょ?」
そう言って百合姉は去っていく。流石店長、言葉の重みが全然違う。そして、希さんとお話があまりできないように釘を刺されてしまった。そこのところもやはり百合姉は抜け目がない。最後の「分かってるでしょ?」が気になるけど。
サンドイッチの材料が足りない、と百合姉の声が飛んできたので、段ボールごと抱えて声のした方へ走った。




