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差し入れの姉 1

 休日、理子姉が事務所でいろいろやっているということを聞き、差し入れを持って行ってあげることにした。丁度理子姉が休憩している時間を狙い、理子姉の部屋のドアをコンコンと叩く。ドアが開くと、そこにはなぎささんがいた。

「……?」

「あの、これ、差し入れで……」

 なぎささんはスーツ姿で、差し入れを受け取った後、何も言わずにドアを閉めた。ぽつんと立っていると、部屋の奥からドドドドと足音が聞こえ、ドアがものすごい勢いで開く。り、理子姉がいた。

「将君だぁぁぁぁ!」

 廊下中に響く声と共に俺は抱きしめられ、部屋の中へと連行される。それを隣でなぎささんが、ドアを閉めながら冷めた視線でこちらを見つめていた。

「理子姉、今大丈夫だった?」

「大丈夫大丈夫! 将君が来てくれて嬉しいなぁ」

「……理子さん、そろそろ番組の企画会議です」

 落ち着いたなぎささんの声で理子姉ははっと我に返る。そして差し入れを見つめた後、若干悲しそうな声でつぶやいた。

「差し入れ、後でみんなで分けておくからね。今日はいろいろごめん」

 そして「歌手としての」理子姉に戻った彼女は、企画会議に向けていろいろと着替えを始めた。俺は軽く礼をして部屋から出る。なぎささんの目は冷たい。やっぱり悪かったかな、と思って事務所から出ると、メールが一通届いた。


『すいません。仕事中はああなってしまうんです』


 なぎささんからのメールである。そう言えば、彼女は仕事の時とプライベートのオンオフの切り替えが激しい人であった。冷たい目線だったのもうなずける。ただ、少しお話ししたかった気もした。迷惑だからしなかったけれど。




 しばらく外で時間を潰していると、理子姉から仕事が終わったよー、というメールが来た。事務所前で落ち合うことになり、向かうと、私服姿になった理子姉となぎささんがいた。理子姉は少し髪形を変えて、サイドテールになっている。スーツ姿と打って変わり、なぎささんは柔らかめの服を着ていた。

「さっきはすいません」

「いや、大丈夫ですよ。迷惑だったらいけませんし」

 なぎささんが謝った後に、理子姉がカリカリと頭を掻く。

「なぎさちゃんは真面目だからねぇ」

「そうですね」

「……行きますよ、ほら」

 なぎささんは少しからかわれただけでぷーっと膨れ上がり、近くにあった車のカギを開ける。理子姉が後ろに乗って、と言ったので俺は後ろに乗る。運転席にはなぎささんが座った。

「どこに行くんですか?」

「百合姉のカフェだよー」

「たまの休憩です」

 車は百合姉のカフェまでぐらぐらと走り出した。ミラーに映るなぎささんの顔はやはり綺麗である。かわいい、と言うより、綺麗という言葉が似合うのだ。しばらく見ていると、ミラー越しに目が合い、なぎささんは顔を赤くして視線をずらした。

「あの、あんまり見ないでください将さん」

「す、すいませんでした」

「そんなになぎさちゃんが綺麗だったんだぁ」

 理子姉がにゅっと顔を出して言う。本当にすいませんでした。


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