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焼き鳥と姉 2

 愛理姉は既に自分の分をむしゃむしゃと食べている。食べながら千秋さんの方を見ると、彼女の視線が俺の脳天を貫いた。それだけで手が動かなくなってしまい、額から、背中から冷や汗が吹き出す。千秋さんは怒っている訳ではないが、体中の震えが止まらない。

「どうした? 不味いのか?」

「い、いえ……」

 慌てて焼き鳥を食べだした。焼き鳥の味など感じない。ただ、脳裏に焼き付いた千秋さんの視線、身体が何度もフラッシュバックしてきて、さらに彼女の声が心臓を何度も何度も高鳴らせる。何回か会っているはずなのに、この感覚は初めてだ。

 なかなか食べられない俺の姿を見て、千秋さんが舌打ちをした。

「食えっつってんだろ」

 千秋さんは俺が持っていた焼き鳥を強引に奪い、口の中に肉を無理矢理入れてきた。急いでそれをむしゃむしゃと食べると、肉が無くなった串を皿の上に置いて、俺の顎のあたりをそっと撫でて来る。千秋さんの顔がすぐそばまでやってきて、目が離せられない。何とか肉を飲み込んだ。

「将君!?」

「少し黙ってな」

「ふぇい……」

 愛理姉がふしゅうとしおれた時、千秋さんは俺と唇を合わせた。カウンター越しに千秋さんの腕が伸びてきて、俺の背中をしっかりとホールドする。愛理姉の前で千秋さんに支配される背徳感がたまらない。

「ったく。自分の好きな姉がいる前でキスされるのかよお前は」

「だ、だって千秋さんが」

「ほら見て見ろ」

 千秋さんから解放された俺が愛理姉の方を向くと、愛理姉は焼き鳥片手に涙を流していた。そう言えば愛理姉はまだ俺が他の人とキスをしているのをあまり見たことがない。

「愛理姉ごめん本当にごめん」

「将君のばかぁ!」

 愛理姉にぽかぽか殴られながら千秋さんに助けを求めようとしたが、彼女の姿は既にカウンターにはなかった。


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