大晦日の姉 2
愛理姉のお手伝いも終わり、居間に戻ってきた。百合姉はどこかに行ったらしく、理子姉がすっかり眠ってしまった美香姉の面倒を見てあげている。その様子はどこかほほえましい。美香姉は子供のように眠っていて、理子姉の胸元によりかかっていた。
「美香姉は寝ちゃったのか?」
「そうみたいだね」
すぅー、すぅーと寝息を立てる美香姉。ぼんやりとそれを見ているとこちらも眠くなってしまい、理子姉のそばによる。そのまま俺はこたつの中に体を入れ、床に横になった。
「あ、将君もこたつむりしてる」
「俺も眠くなってきた」
「それじゃあ私もそうしようかな」
美香姉をこたつの中に入れ、俺と理子姉で美香姉を挟み込むような感じになった。こたつの布団を肩の所まで寄せ、美香姉に寄り添いながら俺は目を瞑る。美香姉は眠りが深いらしく、一連の動きの中でもうんともすんとも言わなかった。
理子姉は美香姉を後ろからなでなでしてあげていたが、彼女にも睡魔が襲ってきたのだろう、少し経った後には美香姉を後ろから抱きしめながら眠っていた。俺の徐々に眠くなって来て、美香姉の手を握って眠りについた。
体を揺り起こされて目を覚ました。歌合戦で理子姉のビデオが放送されるらしく、それで美香姉が起こしてくれたのだ。起こさなかったのか理子姉だけがぐっすりと眠っている。理子姉は恥ずかしがり屋な一面もあるため、彼女が寝ている間に歌合戦のビデオを見ようという事である。ちょうど理子姉の番が回って来た。
〈さて、今回の歌合戦ですが、白金 理子さんは弟さんと年を越すために家におられるそうです。代わりにライブビデオが届きましたので、これをお届けします〉
理子姉、俺の為に今日これ行かなかったのかよ。と思って美香姉の方を見ると、美香姉は理子姉の頬をつんつんつついている。美香姉のためでもあったのかもしれない。
〈それでは、白金 理子さん作曲の「Best Release Of The Her Electrical Revolution」〉
ビデオの中の理子姉は、こちらから見て正面にあるシンセサイザーの前に座った。今までのライブとは違い、彼女の前にマイクの姿はない。歌わないのだ。俺が以前理子姉の部屋で聞かせてもらった一曲が、ここで完成される。
彼女の指が動いた。シンセサイザーを一回押したかと思えば、次に彼女の後ろがライトで照らされた。なんと、そこにはリーンさんの姿があった。サポートメンバーで出演していたのか、と驚いていると、その横がライトで照らされる。右にリリィさん、左にハービィさんの姿がある。夏休みに悪魔界で会ったきりだ。翼はもちろん隠れているが。
優しい音色。優しい、優しいはずのその音色は理子姉の左手によってノイズがかかってしまう。リリィさんのエレキギターがそれを隠すかのように入り込み、音楽の優しかった一面はとげとげした音色でなくなってしまう。ドラムの音も入り込み、音楽は悪魔の心を持つロック調の曲へと変貌した。
それにつれて周りの景色も変わる。四人だけを照らしていたライトはオレンジ色、黄色、赤へと変わり、彼女たちより少し外れた所を照らす。斜めに差し込む赤い光が理子姉の頬を横切り、彼女の左手をオレンジの光が後ろから照らす。レーザービーム。
ロックが全てを覆ってしまうと思った次の瞬間。理子姉の右手が動いた。シンセサイザーによって発せられたパイプオルガンの音、左手のスイッチによるドラム。エレキギターの音を押し返し、ライトの色が危険を示す色から青へと変わった。脳の中で波が引くような感覚に陥り、鳥肌を立ててしまう。
音が消えた。リーンさんのピアノの音が小さく響き、そこに理子姉のピアノの音も入る。曲は徐々に音を小さくしていき、全てが消え去った。




