アドバイザーな姉 3
「……何だか申し訳ないな。こんないい店まで探してもらって」
「千秋さんのためですから」
「やめろって」
夜景がきれいに見える洋食料理店。あまり大きくなく、こじんまりとしたお得感。そんな店を探していたら見事にヒットしたところがあった。値段もお手ごろだからすぐに予約を入れ、窓際の席を取ったのだ。薄暗い照明とジャズの音楽も雰囲気づくりを手伝った。
窓から見える夜景を見ながら千秋さんはぼおっとしている。千秋さんの女の子の一面が徐々に表に出てきている気がした。彼女の横顔を見るとこちらも幸せになれる。
「……どうですか?」
「ありがとう……久しぶりだよ、こんなに尽くされたのは」
過去が気になるところだが突っ込まない。頼んでいた料理が次々と運ばれてきて、二人用のテーブルは大体が料理で覆われた。千秋さんは鳥のもも肉をつかむとそのままはむっと食べ始める。それをじっと見ていると、彼女は目を少しだけ開く。
「あ、あんまり見るな」
「いいじゃないですか。千秋さんは食べる姿もきれいですし」
「褒めたって何も出ないぞ」
「何か出てくるまで褒めますよ」
「っ……」
俺はグラスに注がれたジンジャーエールを一口飲んだ。向こうのグラスに入っているのはシャンパン。色が似ているからどちらも違和感はない。俺は酒飲めないからな。
千秋さんは酒豪と聞いていたが、どうも様子がおかしい。シャンパンを飲んではいるものの、あまり手は進んでいない。場慣れしていないのが大きいのか。
「千秋さん、大丈夫ですか?」
「……ああ、すまない。少し酔っててな。雰囲気がどうも慣れなくて」
俺も自分の分の鳥ももに手を付ける。鳥ももだけでなくローストビーフも。ミルフィーユ仕立てとか名前が長い料理がつらつらと並んでいて、どれもうまい。千秋さんももぐもぐと食べ、それにつれてシャンパンやジンジャーエールの量も減っていく。
「もう一本頼みます?」
「そんな金ないだろ」
「二本までなら大丈夫ですよ。もともと予定建てたのは自分ですし」
「……すまない、いただくよ」
今年のクリスマスは金が飛ぶ。だが、千秋さんの笑顔が見れて良かった。シャンパンでいい感じに酔っ払った千秋さんはとろんとした目で俺の事を見てきた。赤く上気した頬と相まって色気を感じさせてくれる彼女は、その小さなため息すら美しい。
「何か出てきそうですか?」
「何も出さない……出さないよぉ」
「千秋さん?」
「そうだ……確か今日は泊まりだったなぁ……」
千秋さんの目がぼんやりとし始めた。シャンパンを飲む手が止まり、しばらく俺の前の宙をふらふらと視線が漂う。彼女の前の食べ物はなくなっていた。なるほど、飲むだけか。
俺もそれなりに食べ終えた。千秋さんは窓から夜景を見ながら、シャンパンの入ったグラス片手につぶやく。
「……綺麗」
千秋さんからとげとげした何かが抜けていた。俺の知っている一般的な女性の姿だった。焼き鳥屋の千秋さんとは全くの別人の姿があった。俺は彼女にそろそろホテルに行くことを伝える。向こうもそれに了承した。シャンパンはなくなっていた。




