アドバイザーな姉 2
デートの日がやって来た。理子姉に待ち合わせ場所の近くまで送ってもらい、物陰から彼女の様子をうかがう。少し待たせて心配させた後に行くのだ。ケーキ屋さんの屋根の下で、千秋さんは自分の腕時計を見ながら周りをきょろきょろしていた。
「……たく、あいつ。時間だっつのに」
赤髪が雪で映えている。黒っぽいコートと白いマフラーのコントラストもいい感じだ。自分の手を暖めるために息をふー、と吹きかけている姿もかわいらしい。どれもこれも、いつもの千秋さんからは想像もできないような姿だ。そしてコートの間から伸びる黒タイツ。焼き鳥屋の時のぶっきらぼうさは見当たらない。
「……遅いな。事故でもあったのか?」
そういって携帯電話をいじり始める千秋さん。メールが来てないことを見て少し焦ったのか、今度は誰かに電話を始めた。……うん、そうだ。多分理子姉だ。
「……なぁ、理子。将は今家にいるか?」
そんな感じな千秋さんの後ろにそろーと寄る。まだ気づいていない。そしてタイミングを見計らい、一気に両手で千秋さんの両目を隠した。
「誰でしょうか」
「うわぁぁぁぁ!? ってなんだ、将か」
千秋さんが泡を食ったような顔で俺を見た。少し話してから電話を切った千秋さんは、自分の左腕の辺りを指さす。はい、時間に遅れてすいませんでいた。
「千秋さんのためにいろいろ準備してたので遅くなりました」
「……一言多いんじゃないのか?」
「千秋さんのためです」
あえてもう一度言うと、彼女は少し照れくさそうにした後に目をそらした。理子姉の言う通り、千秋さんはこっちからの行動にあまり慣れてない。受け身がうまく取れないのだ。
それなら、と俺はやや強引に左手で千秋さんの右手を包み込む。
「しょ、将!?」
「どうしたんですか?」
「いきなり手をつなぐなんて……こら」
「……駄目、でしょうか」
こっそりと指を絡めながら一言。これは百合姉から習ったテクニックである。別に千秋さんを技で惚れさせようとしているわけではないが、使わないわけにもいかんだろう。案の定千秋さんはしばらく宙を見ながらしどろもどろになって答える。
「そ、その、これは……こいび」
「それじゃあ、行きますよ」
「え、ちょ、将!」
千秋さんって結構ツンデレ入ってたのかもしれない。
イルミネーションが綺麗な所はたくさんあった。だけども人気な所は人が多い。そこで、それなりに綺麗で人が少ない所を俺と百合姉、理子姉で探した。すると丁度いい場所があり、その場所に今俺と千秋さんは来ている。木についた青と白の電極が綺麗に光り、俺と千秋さんの目の前に幻想的な景色を見せる。他の人は今は見当たらない。
「あ、あんまりこういう手のつなぎ方は慣れてないんだ」
「今日くらいいいじゃないですか」
「それもそうだが……」
千秋さんとイルミネーションに囲まれた道を歩いていると、二人で天国に来れたような気がした。向こうもそう思っているのか、それとも無意識のうちにそうなったのか、俺の手を固く握っている。自然と俺と千秋さんはくっつくことになった。
「ここ、千秋さんと来てみたかったんです」
「……他の人がいないな」
「他の人は人気の場所に流れますから、こういう所はあまり来ないんです」
「私の為に探してくれたのか?」
「もちろんです」
彼女は俺の答えを聞いて下を向いてしまった。そのまま歩いていると、彼女は何かを決心したかのように俺に聞いてくる。
「な、なあ、その……もっと、くっついていいか?」
「いいですよ。千秋さんとデートをしてるんですから」
「だから……恋人とかを意識させないでくれよ……」
う、強烈に効いている。理子姉から聞いたのを試してみたけどかなり効く。俺の肩によりかかるように千秋さんがくっついてくるのを見て、俺は何だか千秋さんを征服したような気がした。いや、まだだ。プランを完結させるまではまだ終われない。
右手でそっと千秋さんの頭をなでた。彼女の身体がびくんと震える。




