出し抜かれる姉 5(終)
夕方になり、温泉を出た俺たちは車を俺の家へと走らせる。その途中でなぎささんはあるデパートの地下駐車場へと車を向けた。時間が時間のため奥の方はすっからかんになっていて、そこになぎささんの車が止まる。
「……将さん」
「何ですか?」
「家に帰っても、私の事を忘れないでいてくれますか?」
なぎささんはダッシュボードの辺りを見つめながら、ぼそっとつぶやいた。温泉での彼女の姿とは違って魂が抜けたように静かなその姿は、俺の目に留まらないはずがなかった。俺は知らない間に彼女の片手に自分の右手を重ねていて、彼女の事をじっと見ていた。
「……忘れません。こんなに幸せな日は絶対に忘れませんよ」
「……ありがとうございます、将さん……」
彼女は俺の方に倒れこむと、その場で涙を流した。何が起きたか理解が出来ない俺は、彼女を抱きかかえて背中辺りをなでてあげることくらいしか出来なかった。彼女の心の中でいろいろなものが複雑に入り乱れているに違いないが、俺には到底わからない。
「また、一緒に……ドライブしましょうね」
「はい」
そうして、彼女との幸せな一日は終わった。
その後の事はよく覚えていなく、家に帰った俺は理子姉に抱き着かれ、一日分の愛情を存分に受けた後、他の姉さんたちに抱きしめられた。百合姉の酒にコーラで付き合い、理子姉からひざまくらもしてもらった。愛理姉と皿洗いも少しはやったし、美香姉に子守唄も歌った。
だが、どうしても脳裏にはなぎささんの事が思い浮かんでしまう。夜にベランダに立った俺は、夜風に吹かれながら彼女の事を考える。冬が近づいてきたためか、やけに今日は冷える。彼女は今どこで何をしているのか。それだけが頭にあった。
「……将君、風邪ひくよ?」
「ありがとう、愛理姉」
後ろからの愛理姉の声に答える。部屋に戻って来ない俺の姿を見て何か思ったのか、愛理姉も隣にやってきた。俺の顔を覗き込むと、何かがわかったようにうなずいた。
「なぎささんの事?」
「……どうしてわかったんだ」
「将君のことだもん。お姉ちゃんは弟君が考えていることがわかるのです」
そうやってえっへんと胸を張る愛理姉。ただでさえ胸があるのに余計に胸を張るな。
愛理姉は俺の顔を見ると、思い出したように言った。
「理子姉、なぎささんに将君を取られたって一日中泣いてたよ」
「だろうな……後で謝らないと」
「一緒に寝てあげたら?」
そういう愛理姉の目も少し悲しそうだった。最近愛理姉や理子姉と一緒に寝ていない。俺の心にその事がひびを入れ、俺自身も悲しい気持ちになって来る。そうだ。
「今日は一緒に寝ないか? 理子姉とも一緒で」
「……そうだね」
愛理姉は笑顔になってつぶやいた。理子姉の笑顔も見られるといいな。そしてなぎささん、今日はありがとうございました。また、一緒にドライブ行きましょう。
クリスマス特番を今日この後更新します。お楽しみに。
 




