出し抜かれる姉 2
なぎささんが向かった先はとある中華料理店だった。俺の行ったことがない所で少し不安だったが、なぎささんが優しく案内してくれた。中に入って席に座ると、彼女がメニューを見せてくる。
「将さん、何を頼みますか?」
「……それじゃあ、麻婆豆腐で」
「私は肉まんでいいかな」
店員さんにそれらを頼んだ。朝早いためかまだ店内に人は少なく、なぎささんはそんな状況を見たのか、俺の頭をそっと撫でてきた。なぎささんの姿が可愛いのと、頭をなでてもらっていることの恥ずかしさで俺は目をそらしてしまう。なぎささんの前だと俺が子供のような感じになってしまい、手をどかそうにも雰囲気的にどかせない。目の前のお姉さんのいう事を聞くしかなかった。
「将さん、今日は一緒にいろんなところに行きましょうね」
「……な、何で俺だけ?」
「うー、しょ、将さんと二人きりになりたかったからで……」
なぎささんは俺の頭から手をどかすと、しばらく目線を虚空に漂わせていた。魂が抜けたようななぎささんの顔を覗き込んでいると、それに気づいたのか彼女はハッとして、いつものような真面目な顔に戻る。
「……恥ずかしいこと言わせないでください」
「……すいませんでした」
そんなこんなで麻婆豆腐がやってきた。中華料理店だけあって、家で愛理姉が作ってくれるものとはまた違う。一口ほおばると、あつあつの豆腐と辛みが口の中で踊った。なぎささんの肉まんもやってきたらしく、秋の終盤で冷えた体を暖めるように彼女は肉まんを少しずつ食べていた。
水を飲むために蓮華を置いてると、なぎささんがそれをつかんだ。一口飲んだ後に彼女の方を向くと、麻婆豆腐が一口分入った蓮華が俺の前にひょいと出される。少し戸惑って再びなぎささんの方を見ると、慈しみのある笑顔でこちらを見つめてきた。
何もしないわけにはいかないので、俺はそれを食べる。まるで4歳くらいの子供が親から食べさせてもらっているみたいだ。姉さんたちからもあーんはされたことがいくらかあったが、なぎささんのはまた違う。俺が口をもぐもぐと動かしている間、彼女はこたつの中で丸くなっている猫を見るような目で俺の方を見ていた。
「将さんってかわいいですね」
「そ、そうですか?」
「子供っぽい所もあって、大人っぽい。たまに出て来る子供っぽさがかわいいんです」
子供っぽさ、か。成人が近い年齢になって来たが、俺はまだ子供だったのか。言われずとも、なぎささんの前では子供である。俺はまだ酒は飲めないが、彼女は飲める。車だって運転してもらったじゃないか。そうだな、と結論付け、俺はなぎささんの事をちらちらと見ながら麻婆豆腐を片付ける。
俺が食べ終わって少し経ち、なぎささんも肉まんを食べ終わっていた。彼女が肉まんをはふはふと食べているところを見たかったな、という気持ちもあるが、ちらちらと見ていたからこれ以上望まないことにしよう。彼女は俺に合図をし、俺たちは席を立った。




