飲んだくれる姉 1
理子姉たちが寝静まった頃、百合姉から一緒に飲みに行こうと誘われた。もちろん場所は千秋さんの焼き鳥屋であり、そこに行くと俺たちが来るのを待っていたかのように貸し切りである。ピークの時期はどうやら過ぎたらしい。
「今日は二人か」
「将と一緒よ。こっそり抜けてきたから、今頃他の人たちは寝てるわ」
「よくやるなぁ」
何も頼んではいないが、千秋さんは俺の好物となったかわたれを出してくれた。百合姉にはスナギモ。飲み物はコーラと焼酎だ。もちろん俺はコーラなんだが。
百合姉が一杯飲むと、一日の疲れを全部追い出すかのような深いため息をついた。その後ご機嫌になったようで、俺の方をじーっと見つめてくる。
「ねぇ、将」
「何だ?」
「今度さぁ、お姉ちゃんと一緒にホテル泊まらない?」
「は?」
「ホテルに泊まらないか、て言ってるのよぉ」
百合姉が一杯を飲み干し、千秋さんにまた一杯を入れてもらう。飲み始めて間もないが、少しずつ酒が回ってきているのだろう。そして俺は、コーラを軽く一口飲んだのちに質問に対する答えを考える。百合姉のタガが外れると何されるかわからんからなぁ。
「断っとく」
「えぇー、何で私じゃダメなの? 千秋となら泊まるのかしら?」
「何でそうなるし」
「私は……別にいいけどな」
俺の前で顔を赤くする千秋さん。いや、あなたには話は振ってないですよ。千秋さんと一緒の部屋で寝たら、また前みたく匂いをクンカクンカされるに違いない。嫌いなわけじゃないけれど、あそこまで執着されるのも何だかなぁ。
でも、千秋さんは多少は雑かもしれないが、俺を包んでくれる包容力という物を持っている。世話をしてくれる姉貴みたいな感じがして、また泊まるか、と誘われれば嬉しくなってしまうかもしれない。いや、そうなるだろう。
百合姉が俺の表情を見て、何だか悲しそうな顔をした。げっ、千秋さんの事を考えていたことがばれたのか。俺は慌てて思考を百合姉に切り替える。




