ハイテンションな姉 前編 3
「……はぁ」
とにかく、バスタオルを巻いているようだからセーフだ。
まあ、百合姉はいつ取るか分からない状態だが。
「こっちこっち!」
露天風呂には、俺と姉ちゃん以外の人はいなかった。
理子姉の所へ歩きながら、俺は言う。
「他のお客さんは?」
「……貸切」
美香姉がつぶやく。
貸切、か。なるほど。確かに、理子姉なら出来る技だ。
だがしかし、俺の立場になって考えてくれなかったのか。
「いい景色でしょ」
「本当だな」
露天風呂からは、鎌倉が一望できた。
……のだが、百合姉が俺に後ろから抱き付いてくる。
「しょーくーん」
「ゆ、百合姉?」
「私も!」
「こ、こら。私もやらせて!」
「……ズルイ」
またしても、俺は四人に抱きつかれてしまった。
……みなさん。俺は、健全な男子高校生ですよ。
こんなシチュエーションで、意識が持つわけが……
顔に冷や水を感じて、俺は目覚める。
どうやら、気絶をしてしまったらしい。
美香姉が俺の顔をタオルで拭いていた。
美香姉のまんまるい目が、俺の視界に入る。
「……平気?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
本当は大丈夫ではないのだが。
まだ浴槽に入ってすぐなのか、愛理姉たちも入っている。
「あ、起きた」
理子姉は俺の近くまで来ると、さりげなく肩と肩を密着させた。
その顔が、少し赤くなっている。のぼせてきたのかな。
「顔赤いぞ? のぼせてないか?」
すると、理子姉はもっと赤くなり、何かつぶやき始めた。
「だ、だって、しょ…く…のまえ…し……」
「あまり無理するなよ」
俺は、背中で誰かの殺気を感じた。
……理子姉。離れたほうがいいぞ。殺される。
「将君……どうしてかまってくれないの?」
俺の後ろに立っていた百合姉が、前に出てきた。
タオルでは隠されているが、そのさっきからぷるんぷるん揺れている双子の山と、グラビア級スタイルが視界からなかなかいなくなってくれない。
……危ない。油断したら、もう一度気絶しちまうぞ。
「百合姉。何をするんだ?」
「いや、見たいかな? て思って」
すると、百合姉はタオルをやや下に下げやがった。
胸の谷間がくっきりと見えて、俺はすぐさま隣へ目をそらす。
だが、隣の理子姉を見るときの視線には、やはりその、何ていうか、胸が、少し俺の腕に当たっているのが見える。
「好きじゃないの? 女の子の胸。大きいのが好きじゃない?」
今度は、別方向から殺気を感じた。
……あれは、美香姉? 手には洗面器を持って、つかつかと迫ってくる。
背中からは、どす黒いオーラが放たれて、愛理姉の裏の顔と似ているような。
そして、百合姉が美香姉を見上げた瞬間。
「……だったら分けて」
美香姉は、洗面器を思い切り百合姉の頭に叩きつけた。
痛恨の一撃。美香姉は百合姉に999ダメージを与えた。
「あがっ!」
百合姉は頭を抱えると、その場でダウンした。
美香姉は洗面器を元に戻す。
「……あれほど胸の話はしないで、て言ったのに」
美香姉の胸元は、なだらかなカーブだった。
……なるほど。そう言う事か。その話題はタブーって事にしておこう。
「将。隣、いい?」
「いいぞ」
俺はすかさず言った。何かされる前に。
美香姉はいつもの顔に戻って、俺の隣にちゃぷんと入った。