音楽家な姉 3
いよいよ眠気が襲ってきた。だが、曲が退屈なわけではない。理子姉の歌声が優しくて、俺がリラックスしすぎてしまったのだろう。理子姉は演奏を止めると、眠そうにしている俺の隣までやってきて俺の頭を優しくなでた。
理子姉は俺に倒れるように促し、それに身を任せると俺は理子姉にひざまくらをされるような姿勢に。そしてそのまま頭をなでなでされた。
「理子姉……」
「なぁに?」
丁度真上に理子姉の顔があり、目が合った。理子姉ははっとすると、腕を伸ばして辺りの棚の中を漁る。中から出てきたのは耳かき棒だった。理子姉は俺に右耳を出すように言い、俺はそれに従う。理子姉は俺の右耳で耳かきを始めた。
「……なんかこういうのあれだな」
「こら、あまりしゃべっちゃだめ。耳の中動いちゃうから」
「はい」
「……将君、お姉ちゃんが耳かきしてあげるのは初めてだったね」
そう言えばそうだった。理子姉に耳かきをされるのは初めて、いや、他の姉さんたちにもされたことはない。そんな事を考えていると、右耳の中にある大きな物が取れたような感じがした。理子姉はちょっと嬉しそうな声を出して、もう片手にあるティッシュに取り出した大きな物をひょいと乗せる。
「大きいのとれたよ」
「あ、ありがと」
「反対側もね」
言われるままに反対を向いた俺。今度は左耳に耳かき棒が入って来た。そのままじっとしているとカサカサと耳の中の掃除が始まった。理子姉がかさこそやっていると、今度は左耳から大きな物を見つけたらしい。少し嬉しそうな声が聞こえてきた。
「とれたー」
「……ありがとう」
理子姉の声を聞いていると、意識が遠ざかって来た。
「……おやすみ」
「おやすみ、将君……」
理子姉の暖かさに包まれながら、俺は眠りに落ちていった。




