ハイテンションな姉 前編 1
「ハイテンションな姉」は長いので、前編と後編に分けています。
4月下旬。姉ちゃんたちの中で、今度ドライブに行く事となった。
当日、俺はその準備で忙しく、姉ちゃんたちもばたばたしている。
「将君、カバンの準備は出来た?」
「出来てるぞ。いつでもOKだ」
理子姉はヘアスタイルを整えながら、俺に言う。
俺は荷物が入ったカバンを持って言った。
その横に美香姉が出てくる。
「……時間」
時計を見ると、もう午前八時半。時間だ。
「理子姉! 時間がない!」
「先に乗ってて。私はあと三分で行くわ」
「……将」
俺は美香姉と共に、急いで玄関から飛び出した。
理子姉のGT-Rに乗り込んで、他の姉ちゃんと合流する。
「将君の隣……いいなぁ」
そう言っているのは百合姉。家族会議で、俺の隣だと何をしでかすか分からないという事から助席になったのだ。
左隣では愛理姉が、俺の左手を握っている。
右では美香姉が、俺の肩に首をこてんとして寝ていた。
そして、玄関から理子姉が出てくる。
「遅い」
「ごめん。百合姉。じゃあ、行くよ」
ストレートヘアの理子姉は、車のキーを差し込んでエンジンをかける。
そして、アクセルが踏まれると同時に車は前へ進んだ。
俺たち五人は、しばらく車の中で揺れる。
「で、どこに行くんだ?」
「業界の友達が、とってもいい温泉を教えてくれたの。そこに行くよ」
「温泉?」
嫌な予感が頭を駆け巡る。
俺の想像している物を敏感に感じ取った百合姉はこっちを見た。
「将君。嬉しい事に、そこは混浴よ。私が思い切り可愛がって」
「でさ、将君はどこか寄りたい所ある?」
暴走しかける百合姉の言葉を遮って、理子姉が言う。
遮られてふてくされたような百合姉は、前を向いてうたたねをした。
百合姉は夜型だからな。朝は眠いのだろう。
「俺はないけど、愛理姉は?」
「帰りにファミリーレストラン!」
理子姉はミラー越しに笑うと、インターから高速道路に車を入れる。
ETCの音がなると、理子姉は車のスピードを上げた。
「……かあいい」
不意にそうもらしたのは、俺の肩で寝ている美香姉。
俺以外に聞こえなかったのか、他の姉ちゃんたちは何も反応しなかった。
……動物の夢でも見てるのか。美香姉は趣味が可愛いな。
「なあ、愛理姉。うちでペットは飼ってるのか?」
愛理姉は渋い顔になって言った。
「前にインコを飼ってたんだけど、死んじゃったんだ。だから、もう悲しまないように動物は飼ってないの」
「へぇ。そうなんだ」
広い高速道路を、GTーRは走っていった。
速度計には、「時速80キロ」と書いてある。別にどうかした訳ではないが。
「しばらく道なりに走るから、寝ててもいいよ」
「はーい」
「わかった」
急に睡魔に襲われた俺は、その場で目を閉じた。
愛理姉は、美香姉と同じく俺の肩に首をこてんとする。
そして、俺の意識は遠いところへと沈んでいった。