旅行する姉 6(終)
お土産の黒饅頭を持ち、俺たちは帰りの電車に乗っていた。電車はピークの時期を過ぎたのか少し空きが出来ている。右隣の美香姉は何だか物足りなさそうだ。
「……どうしたんだ?」
「……本当は、ずっと将と二人でいたい」
美香姉の本心が漏れたような気がした。たった一言だけなのに、その一言が俺の気持ちを揺さぶってくる。美香姉の訴えてくるような目もそれを加速させる。
俺はただ、こうして美香姉の左手を握る事しか出来なかった。
「将?」
「……少し、考え事してた」
「……そう」
美香姉は今の俺をどう思っているのか。手を握る事しかできないような腰抜けには思われたくはない。電車に人はあまりいないとはいえ、ここでのあれはやはり目立つ。そんな状況の中、美香姉は誰も見ていない隙をついて俺の頬にキスをした。
「……美香姉」
「……」
美香姉はうつむいた。
もうすぐ、目的の駅に着く。理子姉が迎えに来てくれるだろう。
こんなに悲しい後味を残す旅行は初めてだった。
理子姉に会えて美香姉は少しうれしそうだったが、やはりどこか悲しい雰囲気を漂わせている。理子姉もそれを読み取ったのか、話を俺に振ってきた。
「美香ちゃん、何だかまだいろいろしたかったんじゃないの?」
「……だな」
「……将と二人きりがよかった」
理子姉は少し悲しそうな顔をするが、美香姉の持つ黒饅頭をちらと見た後に言う。
「家に帰ってからも、将君と二人きりになれるよ。寝る時とか、学校に行く時とか」
それを聞いた美香姉の顔が、ほんの少しだけ明るくなったように見えた。美香姉は軽く微笑むと、買ってきた黒饅頭を大切そうに撫でる。
そうだ。美香姉とは、また二人きりになれる。一緒に寝ることだって、学校で話すことだってできる。それに、愛理姉たちもそろそろ拗ねる頃だろう。
「ほら、もうすぐ家だよ」
「……うん」
そう答えた美香姉の笑顔は俺も笑顔にしてくれた。
美香姉かわいいよ美香姉
日曜日からは愛理姉のお話を更新する予定です。
お楽しみなのです。(`・ω・´)




