悪魔世界の特別公演 4
ベランダで百合姉に押し倒されてしまった。動けない。
「ゆ、百合姉、いきなり……」
「か、体が……勝手に動くの……」
百合姉の目がやや青い。そう思った時、百合姉から目を離せなくなってしまった。
百合姉の身体全体から発せられる色気に負けたのか。それとも、何か別の理由か。そんなことをぐるぐる考えているうちに、百合姉が悶え始める。
「百合姉!」
「将……たす……けて……」
百合姉が俺の上に倒れた瞬間、彼女の背中から黒い翼が生えてきた。お尻のあたりからはしっぽが生えてきて、百合姉の目が完全に青になった。
「……獲物、見ぃつけた」
「百合姉! ちょっと待て!」
百合姉が俺の服に手をかけてきた。必死に抗うが、だめだ。百合姉の力が段違いに強すぎる!
シャツを破られた瞬間、百合姉の上から白い液体がどばぁと降ってきた。
「間に合いましたかぁ。良かった良かったです」
「り、リリィさん?」
百合姉は俺から離れると、自分の体についた白い液体をぺろぺろと舐め始めている。
不思議そうに見ている俺に、リリィさんは手に持っていたバケツを掲げて言った。
「サキュバスの捕獲ですよー。被害者が出る前にこうやって捕えるんです」
「サキュバス? 百合姉がか?」
「百合姉? ひょっとして、お姉さんですか?」
ベランダに降りたリリィさんが、白い液体をぺろぺろなめる百合姉を驚きの顔で見た。
「ありゃま」
「ど、どういうことなので……」
「能力が覚醒しちゃったんだねぇ」
なんですかいそれ。
「あの……」
「魔界に来るとねぇ。人間はもう一人の自分に出会えるんだよぉ」
「もう一人の自分?」
リリィさんはなんだか自慢げに説明しているが、俺からしたらちんぷんかんぷん。もう一人の自分って一体何なんですか。
「うーん……分かりやすく言うなら、魔界での姿ってことかな」
リリィさん曰く、こういうことらしい。
人間が初めて魔界に来た時、その人の性格や能力に一番近い種族が決まるそうだ。悪魔になるときもあるし、その逆の天使、はたまた魔法使いのように職業が決まることもある。
今回の百合姉は、百合姉の色気と少しここでは言えない情報をたくさん持っていたことから、人間の夢に出てきてなんかするサキュバスになったそうだ。




