誘拐される姉 前編 1
ふぁんたじー
「……は?」
あまりに突然すぎる出来事に、俺はしばらく言葉を失っていた。
その原因は、居間の机の上にあった一枚の紙である。
「あなたのお姉さん方を誘拐しました、って……これ女の人の字だよな」
人間が書いたようでないような字だが、読めるには読める。
なんだか姉さんたちがさらわれた、という気が全く起きない。
「美香姉ー」
美香姉の部屋を尋ねるが、誰もいない。
「愛理姉?」
台所を見るが、そこにも誰もいない。
「理子姉」
車はあったが、理子姉の部屋を尋ねても誰もいなかった。
「百合姉……」
百合姉の部屋ではパソコンが付いたままで、誰もいない。
「……姉さん」
「畜生……」
「泣くなよ、おい」
千秋さんの店で、俺は焼き鳥をヤケ食いしていた。
「お前を驚かせるために四人でどっかにいったのかもしれないだろ?」
「……姉さんたちだったら何か言うはずです」
「ったく、私一人じゃ埒があかねぇ」
千秋さんはポケットから携帯電話を取り出すと、誰かにメールを送った。
誰だろうな、と考えているうちに数分が過ぎ、気が付くと店の前には二人の女性が。
「おう、入れ」
「お邪魔します……」
「はーい」
中に入って来たのは、なぎささんと希さんだった。
少し意外だった俺は口を半開きにしてしまい、そんな俺をはさむように二人は座る。
「……少しは寂しくなくなったか?」
「……はい」
左に座っていたなぎささんは、うなだれている俺の頭を優しくなでるとこう言う。
「将さんが悪いわけじゃないです。いなくなったなら探せばいいじゃないですか」
「なぎささん……」
右隣の希さんも、俺の目を見て優しく言ってくれた。
「ごしゅ……将さんが寂しいんでしたら、そばにいますよ」
正面を見ると、千秋さんが優しく微笑んでくれた。
「さ、準備はいいか?」




