夜型な姉 1
誰もが寝静まった、真夜中。
「……うぐっ」
俺は跳ね起きた。
特に何もないが、何故だか今日は寝ることが出来ない。
「何か飲むか」
俺は自分の部屋から出て、台所へ向かった。
姉ちゃんたちが起きないように、足音を出来るだけ立てずに移動する。
「……ふぅ」
階段を下り、台所に着いた。
水道で水を出して、コップ一杯の水を飲む。
「何やってるのかしら?」
その声が聞こえたと共に、口に含んでいた水を吹き出してしまった。
慌てて振り向くと、そこには百合姉が立っている。
「み、水を飲んでいただけで……」
「そう。ならいいわ」
百合姉は、まだ寝ないのか寝巻きに着替えていない。
時計を見ると、夜の11時だ。姉ちゃんたちは寝ているはずだが。
「将君。私の部屋に来ない?」
「百合姉の部屋?」
興味がなかったわけではないが、俺の中のどこかが引き止めていた。
危ない。そんな感じに、俺と百合姉の間に距離をとったまま。
「将君を入れるために、片付けたから」
「ちょ、百合姉」
百合姉に、口をふさがれた。
俺の耳元で百合姉はそっとささやく。
「他の子が来ちゃうから、静かにね」
そう言われると、百合姉はにこっと笑った。
おそらく理子姉より、百合姉は背が高い。俺は見上げる姿勢になる。
一階にある百合姉の部屋に、俺は恐る恐る入った。
百合姉の部屋に入ると、まずパソコンがあるのが分かった。
おそらく高性能であろう、そのパソコンの横には……見なかった事にしよう。
とにかく、他の姉ちゃんたちの部屋とは違う所だった。
「将君。ベッド、新しく買い換えたの」
「百合姉……」
見ると、新品のベッドが部屋の隅にあった。
サイズはきっと、ダブルだろう。いや、クイーンか? 相当でかい。
「たまには将君と添い寝したいな、て思ってね。寝よ?」
そう言われると、一番末の弟である俺は逆らえない。
百合姉に無理やり抱かれて、ベッドの中でもぞもぞとする。
「将君。動かないで」
「うぐっ」
百合姉が両手で、俺をがしっと捕まえて放さない。
顔が近いですよ。ちょっと。これ、マズイんじゃないですか!?
「将君、可愛い……はぁはぁ」
息を荒げる百合姉は、獲物を捕まえた猫のような目をした。
そして俺は、蛇に睨まれた蛙のごとく動けない。
百合姉は俺の上にまたがって、顔を近づけた。
「将君、キスをするのは初めてでしょ?」
「は、はひぃ!?」
これ、ひょっとしてファーストキスを百合姉とやっちまう展開ですか。
勘弁してくれ! 俺だって一回目は、そのうち出来る恋人としたいんだよ!
「一番最初が、私よ」
無常にも俺の心の声は天に届かず、百合姉の顔が俺に近づいてくる。
俺は百合姉に顔をがっしりと抑えられ、逃げることもままならない。
もうだめだ、最初を取られる。あきらめかけた次の瞬間。