雷と姉 1
美香姉のお話です。
前にもこんな話をしたことはあるが、美香姉は雷が大の苦手だ。
だから、こんな日は朝からずっと俺の布団の中に入っている。
「……美香姉?」
「怖い……ひゃっ」
雷が外で一回鳴る度、美香姉は声を上げてその場で身を縮こませる。
何だか可愛いな。だけど、今日は学校があるんだが。
「……美香姉、朝ごはん食べないのか?」
「怖い」
たった一言だけが帰ってきた。確かに美香姉らしい理由だ。
胸元にすがりついたまま離れない美香姉を俺は抱き、よっこらせと起き上がる。
布団がはがれ、雷鳴と共に美香姉がさらに震えた。
「今日学校だぞ?」
「……」
しぶしぶ美香姉はうなずくと、俺と一緒にベッドから出てきた。
そのまま台所まで向かい、寝間着のままご飯を一緒に食べる。
雷が鳴ると、美香姉はびくっと震えて顔を青白くした。
学校に登校する最中も、美香姉はずっと身を縮こませるだけだった。
雷が鳴る度に俺の方に抱き着いてきて、なんだか周りの目が痛い。すごく痛い。
やぁ健一。何だかうらやましそうにしているが、結構キツいもんだぞ。
「よう、将」
「健一か。今日はひでぇ雷だな」
「だな。天気予報じゃ、昼ぐらいまでずっと続くらしいし」
美香姉は目をつむったまま俺から離れない。
隣にいた愛理姉は、美香姉の頭をそっとなでなでしてあげていた。
「ほら、美香ちゃん。将君とはおんなじクラスなんだから」
「……怖い」
俺と愛理姉と健一は一斉にため息をついた。
美香姉に呆れたわけではない。その姿がとても可愛かったからなのだ。
今日の授業はいったいどうなる事やら。
俺の少し前の席で、美香姉はずっと小さくなったまま授業を受けていた。
内容など全く耳に入っていないようで、これではどうなるか心配である。
他のクラスメイトは授業で手一杯らしいが、こうやってぼおっとしている俺も珍しいな。
「ほら、将。ここを答えてみろ」
「はい」
先生に当てられたので答えた。
正解。まぁ美香姉からいろいろ教えてもらっているからな。
その本人は今、雷でぶるぶると震えて動かなくなっちまってるが。
先生はそれを知っているのか、美香姉には当てなかった。
「……」
雷鳴が鳴る中、授業は終わる。美香姉昼まで大丈夫かな。
昼休み後、雷は収まった。




