帰ってきた姉 1
今日、理子姉が帰ってくる。
実際に会うのは一週間ぶりだろうか。
「なあ、将。お前の姉ちゃん、帰ってくるんだってな」
同じクラスの健一と、上から二番目の姉である理子姉の事を話していた。
何度も言うが、理子姉は日本中で有名な歌手だ。
「ああ。福岡からやっと帰ってこれるらしい」
「今度お前の姉ちゃんに花束贈ってもいいか?」
健一はいつもよりテンションが高く、少し興奮気味だ。
冷静な俺も、心のうちはそうだったりする。
「やめとけ。お前は美香姉一筋だろ」
「そうだったな。……姉妹丼は無理か」
俺は表では冷静を気取っているが、頭の中では理子姉の事で一杯だった。
いつもテレビでしか見てない理子姉が、家にようやく帰ってくるのが嬉しい。
理子姉に早く会いたい。そういう風に思って、学校生活を送っていた。
「将君。これ」
急に、愛理姉が俺の前に出てきた。
そんな愛理姉の手には、二枚のチケットがあった。
……愛理姉、クラスが違うはずだけどな。でも、何持ってんだろ。
「これは?」
「理子姉の東京ドームライブのチケット。今夜、みんなで見に行くの」
隣で健一がうらやましそうに見ているのが視線で分かった。
「あ、これ。健一君の分」
もう一枚の方のチケットを、愛理姉は健一に渡した。
「お、俺の分!? いいんですか?」
愛理姉はにこにこ笑っていた。
「百合姉が友達を誘っていたらしいけど、来れなくなったらしいから」
「愛理さん、ありがとうございます!」
健一は愛理姉に、思い切り頭を下げた。
よほど嬉しかったのだろう。愛理姉に土下座までしている。
理子姉のライブに行ける。実は、俺もかなり嬉しかった。
そして、待ちに待った放課後がやってきた。
俺は、思い切り帰り道を走っていた。
「将君! 待ってよ!」
後ろからは慌てたような愛理姉と美香姉が追いかけてくる。
だが、俺は早く家に戻りたかった。
今夜、理子姉のライブが待ち遠しいからだ。
「先に帰ってる!」
家の玄関を開け、急いで自分の部屋に行き、制服から私服に着替える。
「どうしたの? そんなに慌てて帰ってきて」
百合姉が俺の部屋の外で、例の声で尋ねてきた。
「そんなに理子に会いたかったの? 将」
「うぐっ……そ、そういう訳じゃないから」
何だろう。理子姉のことを考えると、心臓の鼓動が速くなる。
私服に着替えた俺は、バッグの中身をチェックした。
東京ドームは大して遠くないが、電車が込むのは予想が付く。
「大丈夫よ。ライブが始まるまでまだたっぷりと時間はあるから」
最後にフフ、と笑った百合姉は、俺の部屋の前から遠ざかって行く。
俺がバッグの準備を追えた頃、愛理姉たちは帰ってきた。