隠していた姉 6(終)
焼き鳥屋で、俺と百合姉は千秋さんの前に座っていた。
金を出す代わり、うちで晩飯を食ってけということになったのだ。
白金組にはお世話になったから、焼き鳥屋で夜ごはんを食べることくらい悪くないだろう。
「……うぃ、もう一杯頼む」
「百合、そんな事言ってたらすぐおばさんになるよ?」
「おばさんじゃなーい」
「はいはい」
百合姉は日本酒を飲みながら、隣に座っている俺の腕をとっていた。
白金組のコートを羽織っている百合姉は、いつになく綺麗で色っぽい。
何故なら、百合姉は切られた服を脱いでいるため白いシャツの上にコートなのだ。白いシャツに百合姉の黒い下着がうっすらと透けていて、俺はちらちらと見てしまう。
「どこ見てるのかなぁ? 将」
「なっ」
「百合、将を甘えさせてやったらどうだい?」
「うん」
百合姉は俺を抱き寄せると、百合姉の胸に俺の顔をふにゅっと押し付けた。
百合姉の柔らかい胸と、汗のいい匂いが俺の鼻をつく。
俺の頭は感情のダム決壊状態だった。
「百合姉ぇ」
「甘えん坊さんなんだから」
「うぐぅ……」
俺は百合姉に思い切り抱き着いていた。
百合姉は俺を優しく抱くと、そのまま頭を優しくなでてくれる。
「……百合姉ぇ」
俺の意識は遠い所へ消えていった。
俺が目を覚ました時、百合姉のベッドの上で俺は横になっていた。
隣で百合姉は酔いつぶれていて、時計を見るとまだ早朝の五時。
学校に行くまで時間はあるから、何をしようか。
「……このままでいっか」
学校に行くまで、ずっとここにいよう。百合姉と一緒にいたいのもあるし。
俺は百合姉の部屋のクローゼットにかけてある、白金組のコートを見た。
「……」
月の光で本物の白金のように輝くそれは、百合姉の強さを表しているのか。
隣の百合姉の髪は、月の光で青く、美しく、そして妖しげな輝きを見せていた。
俺は次第に我慢が出来なくなってしまい、百合姉を強く抱きしめる。
「暖かいな、百合姉って」
顔に百合姉の柔らかい胸が当たる。足を絡ませ、俺はその場で目を閉じた。
「んっ……」
百合姉の手が動き、俺をそっと抱いてくれた。
俺が目を向けると、百合姉は半目を開けながら俺の方を見ている。
「将……大好き」
「俺もだよ、百合姉」
「ありがとう……」
百合姉は両手で俺を抱きしめると、待っていたかのようにキスをしてきた。
濃密で長い百合姉とのキスを終えると、百合姉は自分の寝巻に手をかける。
「ねぇ……ここ、興味ない?」
「百合姉!?」
「女の、最大の特徴」
百合姉は俺の手を引っ張ると、いきなり寝巻の中に突っ込んだ。
ゆっくりと、徐々に百合姉の胸めがけて百合姉が動かしてくる。
「百合姉、ちょっと、それは」
「本当は触りたいんでしょ? 顔に出てるわよ。いやらしい弟ね」
「ぐはっ」
俺の指先が、百合姉の胸をむにゅ、とつついた。
俺の頭の中で何かがぶつりと切れて、俺はそのまま百合姉に襲いかかってしまう。
「……もう、そんなに触りたいなら早く言えばよかったのに」
「百合姉ぇ」
「両手で触るなんて、もう本当に変態なのね。口元もにやけてるし」
百合姉の声が、徐々に遠ざかって行った。
気が付いたら、俺は自分の部屋のベッドに寝転がっていた。
すでに朝の七時になっていて、そろそろ学校に行く時間である。
「まずい、遅刻するぞ」
急いで制服に着替え、俺は下の階に降りた。
愛理姉が朝食を用意してくれ、俺はそれをあわてて食べる。
「どうしたの? そんなに慌てちゃって」
「百合姉と違って時間がないんだよ」
「ふぅん……」
百合姉は朝何もなかったかのように言うと、俺の方をじっと見てきた。
「将君! 学校に行くよ!」
「早く」
玄関からは愛理姉と美香姉の声が聞こえてきた。
朝食を食べ終わり、俺は百合姉にあいさつをする。
「いってきます。……あ、そうだ百合姉」
「どうしたの?」
俺は右手で何かをつかむようなジェスチャーをして、百合姉に聞いた。
「これ、百合姉はどう思ったの?」
「どう思った? 私はそんな事させた覚えなんてないわ。変態さんなんだから」
「いや、でも……」
「早く学校に行きなさい。帰ってきたら触らせてあげるかもよ?」
俺は百合姉との会話をあきらめ、美香姉たちの所へ走った。
歩きながら、今日の早朝の出来事を思い出す。
「……」
「……将、元気ない」
「ありがとな、美香姉。ちょっと考え事してて」
美香姉は何だか心配そうな顔で俺の事を見てきた。
そりゃ、俺がずっと遠いところを見ていたら心配するわけだ。ごめんな。
「夢だったのかな……」
百合姉の反応を見るに、夢かもしれないし現実だったかもしれない。
まぁ、あの柔らかい感触は覚えておこう。絶対に忘れないだろうから。
そして、百合姉とずっと一緒にいよう。何があっても、ずっと。
次が第三期エンディングです。




