隠していた姉 4
一番奥の部屋のドアを開けると、そこには赤い光があった。
奥には赤い鎖で縛られた一人の女性……百合姉の姿がある。
「百合姉!」
「おっと、これ以上は近づかせんよ」
俺と百合姉の間に、一人の男が立った。
さっきの男とは風貌も雰囲気も違う。ここのボスか。
「百合姉に何をした」
「男としてまっとうな欲望を晴らそうとしてるだけだよ? こんないい身体しているってのに、お前は何もしないのか?」
「黙れ」
男は笑うと、右の手を高く掲げて指を鳴らす。
すると、物陰から男たちが出てきて、俺を囲った。
「逃げようと言ったって、さっきの男がドアのすぐ前に立ってる。さあ、どうする?」
「俺は逃げない。姉さんを連れてここから出る」
「……いいねいいね。シスコンはここで死んでもらおう!」
ボスが合図をすると、周りの男たちは一斉に俺へとかかってきた。
多勢に無勢。俺は反発しようとするが、そのまま脇へと殴り飛ばされてしまう。
「ほらほら、どうしたんだい?」
「この野郎が……」
俺は唇から出た血をぬぐうと、殴りかかってきた男をさらに殴り返した。
バキっといい音が鳴るが、他の男たちが俺の腹を蹴り飛ばしてくる。
俺はその場でひざを折り、地面にひれ伏してしまった。
「……やめて!」
その時、百合姉の声がした。
俺が顔を上げると、ここのボスが百合姉の方へ近づいているのが見える。
男は百合姉の顔を上げると、その場で思い切り引っ叩いた。
「やめろ! それ以上手を出すな!」
「弱者は黙ってろ」
他の男が俺の後頭部を殴りつけ、俺は地面に倒れてしまう。
男はポケットからハサミを取り出すと、百合姉の服を少しだけ引っ張った。
何をやろうとしているのかは明白。服を、切断しようとしている。
「こ、こら!」
「白金組の組長が弟の前で恥ずかしい格好していたのを知ったら、部下はなんて思うでしょうかね?」
「言うな!」
「おやおや、なかなか強気な発言じゃないですか」
倒れている俺は、わずかに残った意識で百合姉の姿を見ていた。
周りを取り囲んでいる男たちも一斉に百合姉の方を見ていて、これからの見世物を楽しみに待っている。
「それじゃあ、まずは腕から行きますか」
「やめろ!」
「腕を落とされたいんですか?」
「くっ……」
百合姉は唇をかむと、その場で無言になる。
男は百合姉の着ている服にハサミを入れると、丁度右腕の部分を全部切り落とした。
艶めかしい右腕が露わになり、周りの男たちはおおっ、と声を上げている。
百合姉が、俺の百合姉が、みんなの前で屈辱を受けている……だと?
「それじゃあ、反対側も」
要領よく、男は百合姉の服の左腕部分も切り落とした。
服の両腕の部分がなくなり、百合姉は片目から涙を流している。
「百合……姉……」
誰にも聞こえないような声で俺は言った。
百合姉が泣いている。
あの、誰の前でも絶対に涙を流さなかった百合姉が、泣いている。
「将……ごめん……」
「もっと懺悔することになりますよ。組長さん?」
男は組長の所にやたらと力を入れた発音をすると、百合姉の服にハサミを入れ続けた。
腹部、脚部と切り落とされていき、その度に百合姉の体が露わになっていく。
もう百合姉の目から涙は流れていなかった。
「……さて、そろそろメインの方にいきましょうか」
「……そこだけはやめて」
百合姉が、男に向かって泣きじゃくったような声で言った。
いや、懇願した、と言ったほうが正しいのかもしれない。
「どうしてですか? きっと、弟さんも見たいと思っていますよ?」
「お願いだから、胸と下はだめ」
「困りますねぇ……」
男はそういうと、俺の周りの男たちに視線を向けた。
周りの男たちはやれ、切ろ、全部はぎとれと口々につぶやく。
俺は何か反論しようとするが、周りの空気に押しつぶされそうになり何も言えない。
ただ、悔しさで歯を食いしばっていた。
俺には、それしか出来なかった。
「じゃあ、みんなのリクエストにお応えして、最初に胸から行きますか」
「やめて……」
「敗北者に選択の余地はないんですよ」
そう言って、男は百合姉の服の肩部分に刃を入れようとした。
その時だった。
「ぐっ」
倒れている俺の後ろのドアから、男が倒れる音が聞こえてくる。
ハサミを入れようとした男はその場で動きを止め、入口の方を向いた。
「……誰だ!」
声はしない。
ただ、周りの男たちが恐怖を抱いているのが分かった。
男がハサミを机に置いた瞬間、ドアが吹っ飛ぶ。
「……!」
全員の血が凍りついた。
そこにあったのは、ドアを蹴り飛ばした千秋さんの姿だったからだ。
「……組長、助けに来たぜ」