隠していた姉 3
焼き鳥屋のカウンターの向こう側に連れていかれた。
そこには地下へとつながる階段があり、俺は千秋さんと共に下に降りる。
コンクリートの部屋に、机やロッカーがいくつか置いてあった。
カップラーメンや缶詰、水などの非常食も見える。
「ここは白金組の本部だ。今は使われてないが、昔はよくここにみんな来てた」
「何人くらいですか?」
「私の知る限りで5人くらいだな。人数は少ないが、少数精鋭が売りでね」
千秋さんはそう言いながら、本部の中にある埃をかぶったノートパソコンを開いて電源を入れた。
「うわぁ、懐かしいな。私も使うのは久しぶりだから……っと」
パスワードを打ち、そしてメールボックスを開く。
見事に何もないように思われていたが、きちんとファイル分けされていた。
「こっから全員に送り付ける。将、不良どもの情報は?」
「全員男です」
「あそこか。……将、お前はここに行きな」
そう言って千秋さんは、紙にどこかの住所を書いた。
名前も知らないビルだ。千秋さんは俺にそれを渡すと、真剣なまなざしで言う。
「百合はそこにいる。ただ、奴らもいっぱしのやり手だ。素人だからって舐めれば死ぬぞ」
「舐める気もありませんし、死ぬ気もありません」
「その意気だ」
千秋さんはそう言うと、パソコンの前に座って何かをやり始めた。
俺は千秋さんに挨拶をすると、そのまま白金組本部から出ていった。
白金組本部、つまり千秋さんの焼き鳥屋から少し行ったところにそのビルはあった。
学生だとばれないよう、俺は少し大人びた服装をして歩く。
「……そこか」
ビルの名前と住所は完全に一致。階層表を見ると、そこは変な組織名が書いてあった。
読めない。
「……百合姉、今助けに行くからな」
脳裏を千秋さんの言葉がかすっていった。
俺は深呼吸をすると、ビルの中に足を踏み入れる。
ビルの中は、とても薄暗かった。
百合姉の声が聞こえたらすぐさま反応できるよう神経をとがらせ、俺は周りを見る。
辺りから物音はしない。それが、余計に俺の神経をとがらせていた。
体中から、何故か溢れんばかりの殺意が湧いてくる。
「……どこだ?」
その時だった。物陰から一人の男が現れ、俺の行く道を阻む。
「助けに来たのかい? 弟さんよ」
「黙れ」
「カッコつけ? 見苦しい奴はここで倒れてもらうよ?」
男は俺に向かってパンチを食らわせてきた。
俺はそれを腹にもろに受けてしまい、少し後ろに後ずさる。痛い。
「ほらほら、どうしたんだい? やっぱりさっきのカッコつけ?」
「……黙ってろ!」
俺は相手の右ストレートをかわし、返りの足で相手を蹴り飛ばした。
相手はそのまま近くのダンボールに顔を突っ込み、じたばたと動き回る。
俺はその脇を走り抜けると、急いで奥の部屋へと向かった。