添い寝する姉 3
左隣のなぎささんは、布団に入ったらすーすーと寝息を立ててしまった。
だが、度々なぎささんの手が俺の左腕に触れ、その度に俺は震え上がってしまう。
「……んぅ」
真面目ないつもの姿とは違い、無防備な姿をさらすなぎささんが何だかな。
そんな事を考えていると、フライドポテトを食べた後の理子姉が布団に入ってきた。
「空いてるかしら? ……あ、ありがとね」
「いいんですよ……むにゃむにゃ」
なぎささんが寝返りをうち、俺との間にスペースを作る。
その中に理子姉が入り、理子姉は俺の左腕に抱きついた。
「千秋ぃ。将君カッコいいんだよ」
「ああ。だが、少し照れてはいないか?」
千秋さんの言ったとおりである。理子姉に腕を抱かれているせいで、緊張がほぐれない。
それどころか、逆にまた心臓の鼓動が速くなってしまう。
「私も少しいたずらを」
「ふごっ」
俺の太ももの内側を、千秋さんの細い指がつんとつついた。
くすぐられたような感覚に陥り、不覚にも変な声を出してしまう。
「千秋……将君を一回抱いてみる?」
「いいのか?」
「いいんだよぉ」
後ろから聞こえる理子姉の声を聞いた俺は確信した。
語尾が不自然に伸びている。ここに来てまた飲んだのか?
少し吐息も酒臭くなっていて、完全にベロンベロンである。大丈夫なのか理子姉。
「では少しだけ」
「ぎゃっ」
千秋さんはほんのりと顔を赤くすると、俺を両腕でそっと包み込んだ。
体中が凍りつき動けない俺を、千秋さんの体が飲み込んでくる。体に当たる千秋さんの柔らかい胸、背中を這う細い腕、そして絡みついてくる千秋さんの足。
食われる。一瞬そう思ってしまった。
「理子。なかなか抱き心地がいいじゃないか」
「わらひの自慢だよぉ」
口が回らなくなっているぞ。本当に大丈夫なのか?
そう思っている間に、後ろの理子姉は完全に潰れてしまった。起きる気配もなし。
千秋さんは口端で笑うと、俺にさらに体を密着させる。
「ちょ、ち、千秋さん」
「どうした? 遠慮しなくてもいいんだぞ?」
言葉と同時に、千秋さんの目が俺に語りかけてきた。
逆らえばどうなるか、分かっているな? という脅しに近い目。
背中から冷や汗が噴出し、従わないとマズイという結論に行き着く。
俺は千秋さんの背中に腕を回し、背徳感を感じながらも千秋さんを抱きしめた。
「やれば出来るじゃないか」
「い、いや、その……」
「……なあ、将」
急に千秋さんは小声になった。
「……店、暇な時に来てくれないか。話し相手がいるだけでも助かるんだ」
「わ、わかりました。千秋さんの店ならいつでも」
「助かるよ……やっぱり、理子に似てるな」
「そうですか?」
「あいつもそうだった。初めて会ったときは少々怖がっていたからな」
ということは、今の俺が怖がっているように見えるのだろうか。
それを察した千秋さんは、俺の方を見て微笑む。
店で感じる男気はなくて、千秋さんが女性であることを再確認させられた。
「それに、まんざらでもないんだろう?」
「う……」
「私の事が好きなら、いつでも来な。定休日でもいたら相手してやるよ」
「え、好きって……」
「隠せるとでも思ってるのかい? これでも客の心ぐらいは読めるさ」
頭から何かがスーッと引いて行ったような感覚を覚えた。
体温は上昇。心拍数も跳ね上がり、千秋さんに俺の荒い吐息がかかる。
後ろの理子姉が寝ていることを確認した千秋さんは、俺に言った。
「私も、お前のことが好きかもしれないからな」
そして、千秋さんは俺の頬にそっとキスをした。
今まで感じたことのない驚きと罪悪感がこみ上げてくる。
千秋さんは俺から離れると、その場で満足したかのように眠りについた。
「……夢、じゃないんだよな」
理子姉の方を向いた。理子姉はまだ眠りから覚めることはない。
俺は目を閉じ、深い眠りへと堕ちていった。