真夜中の姉 1
車を走らせ、俺たちはとある焼き鳥屋に来ていた。
カウンター席になっていて、理子姉、俺、マネージャーさんの順に座る。
「かわたれ10本ください」
「あいよ」
店の奥からは力強い女の人の声が聞こえてきた。
理子姉は待ち時間の間、マネージャーさんに話しかける。
「なぎさ。この子が私の弟の将君だよ」
「将さんですか? 結構カッコイイ方で」
「そうなんだー。私の自慢の弟なの」
今まで石像の様に動かなかったマネージャーさんが理子姉と会話を始めた。
それも、すごく軽い感じに。あれ、マネージャーさんって前に理子姉のライブに行った時、かなり真面目な方じゃなかった?
「かっこいい弟でうらやましい限りです」
「みんなからブラコンって言われても仕方ないんだよね」
奥から赤髪長髪の女性が現れた。
さっきマネージャーさんが頼んだかわたれと、ビールの中ジョッキを一本。
「持って来たよ。……あれ、お客さん会うの初めてだね」
「あ、どうも。姉がいつも世話になっているようで」
「理子の弟かぁ。かわ好きかい?」
「はい」
俺がそう答えると、赤髪のお姉さんは何か理解したかのように笑う。
「じゃあうちのアレもきっと好きだろうね。理子、出すかい?」
「お願いしておくね」
「あいよ」
そう言ってお姉さんは店の奥へとまた引き返していった。
理子姉は俺の左ひじを小突いてくる。
「えへへ……そんなにあの店員さんが可愛かったんだ」
理子姉、顔が真っ赤に。てかもう酔ってるし。
い、いや、別にその、可愛いわけじゃないんだけど……ないんだけどね。
赤髪がふと脳裏に蘇り、ついぼーっとしてしまう。
「ほら、うちの特製チーズにぎりだよ」
「あ、ありがとうございます!」
右隣でマネージャーさんも受け取り、一緒ににぎりを一口食べる。
口の中にご飯のうまみとチーズの濃厚さが広がった。
「おぉ、うまい」
「どうやって作ってるんですか?」
マネージャーさんの問いに店員さんは胸を張って答えた。
「特製のたれおにぎりの周りにチーズを巻くんだ。その後焼けばいい」
「勉強になりました」
左隣で理子姉は、既にぐったりと潰れていた。疲れているのだろう。
かわたれを一口食べながら、俺はマネージャーさんたちと会話をする。
「ところで、お名前は?」
「私は上村なぎさ。理子のマネージャーをやってるの」
真面目で固い人かと思っていたら、意外にそうでもなかったな。
それを察知したのか、なぎささんは俺に言う。
「この店はよく来るの。いつもはピリピリしてるけど、ここならゆっくり出来るから」
「そう言ってもらえて嬉しいよ」
店員さんはなぎささんにそう言った後、俺のほうを向いて言った。
「私の名前は本堂千秋。ここで焼き鳥屋をやってるんだ」
「焼き鳥屋って珍しいんですね」
「ああ。仕事帰りのサラリーマンはよく来るけどな」
千秋さんってなんか男勝りの所があるかもな。カッコイイし頼りになる。
つい、彼女の赤髪にも惹かれてしまう。
「……どうした? ぼーっとしているが」
「あ、すいません」
右隣のなぎささんは、そんな俺の様子を見てくすくすを笑っている。
相変わらず左の理子姉は潰れたままだが。
「将さん。姉は大切にしてやってくださいね」
「は、はい」
「理子はうちのお得意様だからな。何かあったら来るといい」
「わかりました」
かわたれは全部なくなり、なぎささんがお金を支払って俺たちは出た。