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バグだらけの乙女ゲー、攻略無視して守護神様(狐)を連れて逃げることにする  作者: MIRICO


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8/16

6−2 白

「君は、面白いね。貴族の令嬢で君みたいな女性に会ったことがない」

「私は、貴族じゃないですよ」

「……貴族じゃない?」


 あまり見ているとこちらの気持ちが落ち着かなくなるので、行く先を見ながら言うと、ブランドロワは間を置いて問うた。

 むしろ貴族だと思われていたのか。


 もしや、この学園に入る生徒たちは皆、貴族なのだろうか。

 そういえば、ノワールは王子という話だった。王子がいれば貴族もいる。


「平民なのかい?」

「私の国は、身分制度がないので、平民、というか、ですけど」

「そういえば聞いたことがある。日本国にはそういう制度がないのだと」


 日本国という言葉が乙女ゲーに組み込まれているのか、ブランドロワは納得したように一人うなずいている。

 今までの態度からして、失礼なやつだな。とか思っていた可能性が高い。

 もしかしなくても、花奏の態度は大層失礼だったのだろう。ノワールも殿下と呼ばれていたし、先輩呼びはまずかったかもしれない。


 冷や汗をかきそうになりながら、あとで青藍に聞いてみようと足早に進むと、ランプを持っていた手に雫が滲んだ。


「うわ。ほんとに雨降ってきた」


 しかも、一瞬でずぶ濡れになるほどの大雨になった。マニュアル通りの豪雨だ。

 目の前は霧のように白んで、よく見えなくなる。


「急ごう!」

「もうびしょ濡れだし、ゆっくり行きませんか。走ったりしたら滑って危ないですよ」


 そう、滑って崖の下などは、お断りだ。

 実際、すでに濡れ鼠で、ゴールも見えない。走ったところで、泥が跳ねて、白の制服が茶色く汚れるのが目に見える。


 それを言うと、ブランドロワはクスリと笑った。

 嫌味のない、柔らかな笑み。微笑みではあるが、口元だけの笑みとは違う、心からの微笑みだ。


「うわ」

「うわ?」

「……いえ、迫力を感じる笑みだと思い」

「迫力??」

「とても、良いと思います」

「ふふ。ありがとう」


 攻略対象、怖すぎる。微笑みで落としにくるとは。


 ブランドロワは雨も滴るいい男をキープしている。花奏の顔なんて、前髪はぺたんこになり、激しい雨で目が開けにくいから半開きで、きっと見るも無惨な顔をしているのに。


 ブランドロワの笑みは直視しないようにしよう。そう誓っていると、ブランドロワがこれはどうだろう、と魔法陣を空に描いた。

 魔法陣が白色に光ると、シャボン玉のような透明の球体が花奏を包む。すると、球体が大粒の雨を弾いた。


「すごーい。どうやるんですか?」

「君もできるんじゃないかな。想像してごらん。丸いものが大きくなって、結界を張るんだ」

「雨だけを凌ぐんですよね。空気遮断しないように」


 ならば、シャボン玉のように、人を包むのはどうだろう。だが息はできるのだろうか。できるようにするとシャボン玉ではなくなってしまう。


「難しく考えることはないよ。思うように想像するんだ」


 ブランドロワが魔法陣を描いてくれる。そこからシャボン玉が膨らむように、花奏とブランドロワを包んだ。


「素晴らしいな。こんな簡単に作ってしまうなんて」

「ブラン先輩が魔法陣描いてくれたからですよ」


 花奏はただ想像しただけだ。それだけで、簡単にできてしまった。

 シャボン玉がよく見えるように、ブランドロワは球体を消した。雨が跳ねて、虹色が滲み、内側から見るシャボン玉の虹色は、波のように揺れて動いていく。


「すごく素敵ですね」

「綺麗だな」

「ほんとに、綺麗」

「君のことだよ」

「え?」


 問い返した瞬間、パシャンとシャボン玉が割れた。途端、再び大雨に打たれる。


「シャボン玉だから、簡単に割れてしまったね」


 ブランドロワは何もなかったように、再び球体を作ると、余裕の笑みを見せる。


 乙女ゲー、怖すぎる。


 恥ずかしげもなく言われて、こっちが照れるだろうが。

 それがわかっていると言わんばかりに、ブランドロワは笑いを堪えるように吹き出している。


「冗談だよ。ほら、ゴールが見えてきた。ランプが消えることなく進めたから、君は合格だね」

「合格?」

「これは試験の一つだよ。成績に関わるんだ」

「ええっ!?」

「授業だと思って気を抜いてはいけないよ。いつでも成績に関わるのだから」


 そういうことは先に言ってほしい。

 ブランドロワはランプを持つと、建物の中で待機していた生徒に何かを伝えた。するとすぐにタオルを持ってきてくれる。


「ほら、風邪を引いてはいけないからね」


 だからって、髪の毛は自分で拭けるので、真正面から拭かないでほしい。

 いつの間にかランプは地面に置いて、ブランドロワは花奏の頬を拭き、髪の毛を優しくなでた。


「だ、大丈夫です。自分でやれます。先輩の方がびしょ濡れですし!」

「僕は大丈夫だよ。君の方が心配だ」


 もう、やめてええ!


 心の声が口から漏れそうになって、ブランドロワは急に吹き出した。


「ぷ、ふふ。くくく」

「もしかして、……からかったんですか?」

「そんなことはないよ。風邪を引いては困るだろう?」


 言いながら、ブランドロワは笑いを堪える。


「今日はお疲れ様。風邪を引かないようにね」


 ブランドロワは笑いながら、濡れたタオルを持って行ってしまった。

 なんてこと。攻略対象、イケメンを盾にして、いたいけな乙女? をからかうとは!

 おかげで礼を言い損ねてしまった。


 入れ替わりでグルナディーヌがやってくる。ブランドロワの前ではかしこまって礼をして、その背を追ってから、花奏の方にタオルを持ってきてくれる。


「タオルはいらなかったかしら」

「いります! ありがとうグルナちゃん!」

「けれど、ブランドロワ殿下に拭いていただいていたわ」


 グルナディーヌはかすかに瞼を下ろし、唇を歪めた。


「えーと、今日のってテストって言われて、泣きべそかいてたの!」

「まあ! そうでしたのね。テストもなにも、授業で良い成績を出さなければ、何にでも成績に響くんですわよ?」

「そうなの!?」

「当然ですわ。どの授業であろうと、評価をいただくのですから」


 弓矢で的を射るのも成績に関わると言っていたのだから、どの授業でも同じということだ。

 すでに壁を壊しているので、点数はプラスどころかマイナスかもしれない。


「いい成績収める予定があ!」

「あなた、また何かやらかしたのではないわよね? ブランドロワ殿下はお優しい方、迷惑をかけていたのならば、許さなくてよ」

「殿下?」

「あなた、まさか、知らないとか……」

「あの人も王子様なの?」

「なんてこと! この国の王子殿下よ!」


 王子が二人いた。白王子と黒王子ときた。道理で対照の色になっているわけだ。

 グルナディーヌは目くじらを立ててくるが、知らなかったのだし、そこまで悪いことはしていないと思う。迷惑をかけたかどうかは判断しかねるが。

 目を付けられたかどうか問われれば、目を付けられたに違いない。それは言わないでおく。


 もしかしなくても、グルナディーヌはブランドロワが好きなのではないだろうか。他の女子生徒のように、単純なファンかと思っていたが、どうやら違うようだ。

 出発のとき、花奏が手を振ったのを見ても、気付かないふりをしていたのかもしれない。


 攻略対象。近くに寄らなければ問題ないと思っていても、あちらから近付かれてはどうにもならない。

 だが、グルナディーヌがブランドロワを好きならば、一層警戒した方が良さそうだ。グルナディーヌはライバルポジション。ブランドロワを取り合うなど、とんでもない。


「先輩なんだから、そんなに会うことないよね」


 ポタ、ポタ、ポタ。一定のリズムでゆっくりと雫が落ちる音が耳に届いて、花奏は窓の外を見やった。

 雨は今頃やんで、先ほどの大雨が嘘のようだった。乙女ゲーのイベントらしく、大雨が降ったのは間違いない気がする。


 空は白いまま。雨も止んだので、雲も薄くなったようだ。

 雨音とは違う音が、まだ聞こえている。


「ほら、ちゃんと拭きなさいな。ひどい格好だわ」

「ありがとう、グルナちゃん」

「ブランドロワ殿下は、大丈夫だったかしら」


 もうここにはいないブランドロワを探すように、グルナディーヌは廊下の奥を見つめる。

 花奏はもらったタオルで髪を拭きながら、まだ聞こえる水音に、耳を澄ましていた。

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