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バグだらけの乙女ゲー、攻略無視して守護神様(狐)を連れて逃げることにする  作者: MIRICO


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5 ぱぺ

「青藍さん、青藍さーん、せいらーん!」

「大声を出さなくても聞こえている。もう授業は終わったのか?」

「わかんないけど」

「わかんないけど?」


 青藍がおうむ返しにして首を傾げるが、花奏も傾げたかった。


 弓矢の授業の後、ブランドロワに連れていかれたため、次の授業の場所がわからないのだ。そもそも、固定の教室がどこにあるか知らない。そのため、グルナディーヌが連れていってくれないと、目的地がわからないという、他責状態である。

 彼女と離れた時点で、オープンワールドのように自由になり、花奏は行き先を見失った。


 それを言うと、青藍の狐の耳と尻尾が、しおれるように力をなくす。


「怖いねえ」

「怖いねえ、じゃない! 真面目に学園を卒業するんじゃなかったのか!?」

「そのつもりだったんだけど。おかしいよね」

「おかしいのはお前だ!」


 一通り青藍の突っ込みをもらい、花奏は床に腰を下ろした。

 青藍の尻尾が、床についたり上がったりする。あの尻尾に顔を埋めてみたい。もふりたい気持ちを我慢して、花奏は部屋を見回した。


 青藍のいる本殿は、数段の階段を上ると部屋になる。玄関のように上がりかまちがない。日本家屋らしく四方すべて開くようになっていたが、奥の襖も左右の襖も閉まっており、青藍の真後ろには衝立もあって、部屋に入らせてくれそうな雰囲気はなかった。

 入って良いとも言われていないので、床に座るしかない。


 突っ立ったままの青藍も、上がれとは言わず、「それで?」と続きを促す。

 花奏は本日の出来事を簡潔に青藍に話した。


「先生もスタックしたみたいになって、もしかしたらバグったのかなって」


 そこまで言うと、青藍が目を剥いた。


「この世界を壊す気か!?」

「そんなつもりはないけど」

「だが、異常があったのだろう!?」

「そうだけど」

「この世界は救いの世界だ! 壊れてしまったらどうする気だったんだ!?」


 激しい怒りを見せられて、花奏は立ち上がった。青藍は拳を握りながらも、どこか青ざめたように見えた。

 この乙女ゲーのキャラからすれば、怒って当然だ。花奏だってこの世界の中にいる。その世界を壊したら、出られなくなるかもしれない。実際、画面揺れが起きた時はぞっとした。今ある景色が真っ黒にでもなったら、絶望でしかない。

 まだ世界があるだけマシだったのだ。


「……ごめんなさい」


 普段怒られ慣れていないせいか、青藍の怒りは心に重くのしかかった。

 青藍に怒られると、胸の辺りが痛くなる気がする。

 申し訳なさに首を垂れると、青藍はハッとしたように顔を背けて、振り切るように首を振った。


「はあ、いや、俺も言い過ぎた。それで、その後どうしたんだ?」

「ブランドロワって人に連れて行かれて、魔力を計り直されたの。前はバラ色って設定だったらしいけど、黄色になったよ」

「魔力測定の色は、黒が一番高く、白が一番低い。黄色は白の次に高い色だな」

「そうなんだ。良かったあ」

「良くないだろう。結界まで壊して、黄色? あり得ない」


 青藍によると、魔力測定の順は、高い方から黒、深緑 青、紫、赤、黄緑、茶、灰色、バラ色、水色、黄色、白となるそうだ。

 バリアを超えて壁を壊しておきながら、下から二番目は、さすがに誤魔化しが下手すぎるかもしれない。と青藍。


「むしろ上げた方が良かったんじゃないか?」

「今さらだよ。それにしても、色とりどりの順番だね。その並び、なんだっけ?」

「魔力測定の高低順だ」


 それはわかったが、他に何かあったような気がする。


「それより、お前、妙な匂いがするぞ?」

「焦げくさいかな。煙の匂い?」


 爆発した時に、匂いがついてしまっただろうか。腕を嗅いでみるが、良くわからない。

 青藍は鼻をぴくぴく動かす代わりに、狐耳を片方ぴこぴこ揺らす。あそこに耳があるとしたら、人間の耳はどうなっているのだろう。髪がかかっていて見えない。


「耳がなくて髪の毛生えてるのかな?」

「なんだって?」

「いえ、なんでも。草くさい匂いする? やっぱり爆発の匂いかな」

「もういい。学園に戻らないならば、寮に戻れ。今後のことを考えて、魔力の抑え方を徹底しろよ」

「はーい。お邪魔しましたー」


 花奏は神社を後にして、自分の住んでいる寮へ向かう。学園から寮への道は覚えているので、グルナディーヌがいなくても辿り着けた。寮にグルナディーヌはまだ帰ってきていなさそうだ。自分の部屋に入り、ソファーに倒れ込む。


 青藍の怒りに静止してしまった。普段怒られることがないと、思った以上に心にダメージがくる。


「甘やかされてるからなあ」


 誰かに怒られた記憶はない。両親は優しい。兄もいつも花奏のことを見ていてくれる。だから花奏は笑い、いつも元気でいられる。

 それで、悪いことをしたのだとわからないのに怒られると、どんな反応をしていいのかもわからなくなる。


「は、いかん、いかん。笑顔。笑顔だよ」


 自分の頬を引っ張って、口角を上げる。鏡に映った花奏の顔は、引き攣った笑顔だ。改めて、顔全体で笑顔を作る。嘘くさくはないであろう、自分の顔が鏡に映った。

 ブランドロワほどの柔らかな微笑みにはならない。さすが王子の微笑みといったところか。


「笑顔は大事だからね。周りに心配かけちゃいけないから……。それにしても、今日はハードモードだったなあ」


 イケメンとの触れ合いはともかく、先生のスタックはシュールすぎた。NPCは完全にプログラムで、会話が成立するのか不明なレベルだ。見目は人間でも、まるで精巧なアンドロイドを見ているよう。

 だからこそ、壊す、という言葉がしっくりくる。


「乙女ゲーの中、だもんね」


 ゴロリと転がると、棚の上に飾られている青の人形が目に入った。ぱぺだ。しかも、友人が持っていた、青藍ぱぺ。


「なんでここにあるの?」


 最初からあったのだろうか。覚えていない。

 聖地の神社でこのぱぺを踏んでしまった。その後のことを覚えていない。本当に青藍のぱぺを踏んだ呪いで、この乙女ゲーに入り込んだのだろうか。


「友達が一緒に撮ろうって言うから、二人で撮って、ぱぺ落として踏んじゃって」


 その後、何があったのか、まったく思い出せない。


 花奏はそのぱぺをカバンの取っ手につけた。元の世界にあったものと同じかわからないが、もし同じならば、この世界と元の世界を繋げてくれるかもしれない。


「そうであればいいんだけど」


 青藍のぱぺをなでて、ぱぺを踏み付けたことを謝っておいた。

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