4 測定
「驚いたよ。新入生の見学に行ったら、教室を壊した生徒がいて」
白キャラが、占いに使うような水晶の玉を持って、にこやかに微笑む。
花奏を連れて、白キャラは別の教室へやってきた。教室と言って良いのか、ステンドグラスの窓で飾られた、パイプオルガンのある講堂のような広い部屋だ。
演台にその透明な球を置いて、柔らかに笑む。入学式に上から目線な祝辞を述べた割に、白キャラは穏やかそうな雰囲気を持っていた。
「えーと、先輩? 私になんの用でしょう」
「ブランドロワだよ。ブランドロワ・ディ・ジェルヴェーズ」
「はあ。ブランド……ロワ、先輩?」
「ブランで構わないよ」
ブランドロワは優しく微笑む。その笑い顔がこびりついているくらい微笑んでくる。
攻略対象なのは間違いない。白銀の髪、目の色はさすがに白ではないが、灰色で、色素は薄い。制服は白金に、さらに違う色の白を基調としており、今のところこの色の制服は他で見ていない。タイ留めのチャームは時計で、これもまたこの人しかつけていなかった。他の生徒はタイ留めすらない。
身長は青蘭と同じくらいだろうか。若干垂れ目で、まつ毛が長く、柔和な雰囲気がありながら、体格はしっかりしているように見える。骨張った手の指先は長く、手フェチに片足を突っ込んでいる花奏にとってポイントが高い。
とはいえ、攻略対象。緊張感を持って接したい。うっかりはまってしまったら、沼から抜け出せなくなってしまう。
それにしても、
「エンカウント率高いなあ」
「何か言ったかい?」
「いえ、それで、ブラン先輩は、私にどういったご用でしょうか?」
「魔力測定がうまくいっていなかったようだから、計り直してもらおうと思ってね。君の値はバラ色だったはずだけれど、それ以上のようだ」
新入生の魔力の数値を、全員分覚えているのだろうか。
そして、魔力の値のバラ色とは?
よくわからないが、値が高いのはよろしくない気がした。
「さ、手を乗せてごらん」
水晶に手を乗せるだけで魔力が測れるのか。花奏はおそるおそる手を伸ばす。
「もっと、しっかり乗せて」
ブランドロワが花奏の手を取って、水晶に乗せ直す。
なぜ、手に触れる!?
位置に変わりはないように思えるが、ブランドロワが花奏の手の上にそれを乗せたまま、じっと動かない。
この世界は乙女ゲー。ボディタッチも当たり前か?
いや、勘弁して。汗、手汗がっ!
高校一年。彼氏などできた歴史はない。男性に慣れているのかと問われれば、近くにいたのは年の離れた兄だけだ。
こんなことで照れる花奏では、ないわけではないのである。
「あの、まだでしょうか」
「正常に動くまで時間がかかるんだよ」
それを待つのに、一緒に手を乗せている意味はあるのでしょうか!?
もしや、イベント的なものなのでは?
水晶が少しずつ温かくなっているような気もするが、どちらかというと、覆われている手の甲の方が熱くなってくる。
まだ? まだなの??
ブランドロワと目が合って、急いで水晶に視線を戻す。
イケメンを直視した上に、この接近具合。手を触れられていれば、恥ずかしさを通り越して、頭が爆発しそうになる。
心頭滅却。ブランドロワは見なかったことにして、球面の端に自分の顔が映るのを見やった。馬子にも衣装の制服を着た花奏が映り、現実に戻される。
「さ、そろそろ集中しようか」
やっとブランドロワの手が離れた。背中も密着していたのか、温もりが遠のいて背中の温度が寂しくなる。
恐ろしい。これが攻略対象の技なのか。男慣れしていないと思って、初手からこんな技を使うなんて。
歯噛みしたい気持ちを抑えて、一息つくと、花奏は水晶を見つめた。
先ほどの授業は集中しすぎてしまった気がする。だからあんなに威力のある矢が飛んでしまったのだ。だったら、集中しなければいい。——いや、もっと少ない集中にすればいいのだ。
花奏は米粒くらいの魔力にするのだと、米一粒を想像した。弓を使って米粒を投げる想像だ。
何言ってるの、お米は投げちゃダメでしょ? 食べるものよ。
などと余計なことを考えると、お米を食べる想像をしてしまった。白米を一口食べたところで、水晶が黄色に光る。
バラ色ではない色に、花奏はそろりとブランドロワを視線だけで見やった。ブランドロワは一瞬眉根を寄せた。
「ど、どうでしょうか?」
「前より、低くなったようだね」
「そうですか? じゃあ、あの的が壊れていたのでは!? もしくは、渡された石がおかしかったとか!」
「そうかな?」
「そうですよ。そうに違いありません。じゃ、私はこれで!」
「あ、待って、」
そんな声が後ろから届いたが、走り出した足は止まらない。
花奏はダッシュしてその部屋を飛び出した。
怖すぎる!
変に目を付けられたくない。攻略対象に関わって、何か起きるのはお断りだ。
攻略対象にハマるわけにはいかない。もっぱらそれである。好きになっちゃったらどうしてくれるの!?
それに、この乙女ゲーがどんな内容なのか知らないのだから、できるだけ関わりたくない。
青藍は危険があるわけないと言っていたけれども、魔法があって、あの矢のように爆発もあるのならば、なんとも言えないではないか。
学園乙女ゲーあるある? 他の女子生徒から嫌がらせをされる、が発動するかもしれない。
「怖い、怖い」
「あ、」
「わっ、ごめんなさいー!」
廊下の角を曲がろうとしたとき、女子生徒にぶつかりそうになった。ぎりぎり当たらなかったので、謝りながら、足を止めずに廊下を走り続ける。
しかし少し遠ざかったとき、後ろから声が届いた。
「危ないですよ」
「え?」
声の主に振り向けば、その人はもう廊下の角を曲がってしまっていた。
ぶつかりそうになった女子生徒は、ピンクの髪色だった。緑の髪色をした男子生徒と話していた子だ。
「あの子、もしかしてNPCじゃない?」
NPCの生徒はわかりやすかった。人間味がないというか、動きが滑らかではないというか。
教室にいた生徒たちは各々話したりしていたが、その話の内容に持続性がなかったのだ。
できないなあ。難しいなあ。やった、できた。当たらないなあ。そんな単語単語で、友達同士で話しているように見えても、会話になっていなかったりする。
「ちょっとホラーなんだよね。モブってのが丸わかりで」
先生もスタックしたくらいなのだから、攻略対象以外はまともに会話ができないかもしれない。だが、先ほどの女子生徒は違う気がする。
「乙女ゲーって、女の子三人って出てくるのかな? もしかして、女の子に見えて、男の娘とか?」
あり得なくもない。女の子と見せかけて、攻略対象もあり得た。
ゲームをやってないことが悔やまれる。
とにもかくにも、まずは青藍に報告しようと、神社に戻ることにした。




