3−2 魔力
「負けていられませんわ!」
花奏のつぶやきをよそに、グルナディーヌが気合を入れた。意気込みながら立ち位置で姿勢を伸ばす。
先生が、突っ立ったまま、さあ、次の方、と口にすると、自動的にバリアが直り、的が浮かび上がった。さすが魔法がある設定だ。
グルナディーヌの弓はやはり小さめで、弓を構えるとかわいらしい。
先ほどのノワールの弓は、アーチェリーの弓くらいのサイズだった。グルナディーヌの弓は、その半分くらいのサイズしかない。あれで矢が飛ぶのだろうか。
そう思ったのも束の間、グルナディーヌの矢が放たれると、的のど真ん中に突き刺さった。
「エイムすごっ! グルナちゃんすごーい。ど真ん中! GG!」
「なんとおっしゃったの?」
「ぐっどげーむですよ!」
「言っている意味がわからないわ」
「かっこよかったです、姐さん!」
「誰があなたの姉になったのかしら」
グルナディーヌは冷ややかに言ってくる。お嬢様にはFPS用語も姐さんも通じないようだ。
ふん、と鼻を鳴らして、グルナディーヌは目を眇めると、悔しそうにした。
「当たって当然ですわ。ですけれど、やはりわたくしは弓より剣の方が良いですわね」
グルナディーヌは的を睨みながら、手にあった弓を石に戻す。グルナディーヌのチャームは剣だ。女性キャラながら剣が得意とは、勇ましくてかっこいい。
「ノワール殿下のように、的を壊すことはできませんでしたわね」
「グルナちゃんもすごいよー。この距離でその小さい弓で、あんなとこまで飛ぶんだね」
「弓のサイズなど、この距離であれば関係ありませんわ。魔力で飛ばすのですし」
「そうなの?」
「そうですわよ。あなたも、矢を射るときはただ飛ばすのではなく、的を突き刺すつもりで射るのですよ?」
グルナディーヌの助言をもらって頷いてなんだが、まだ弓矢ができていない。
そうこうしている間に、他の生徒たちも続々と弓矢を作り、的を狙い始めた。チュートリアルのシューティング練習をしているみたいだ。次々に矢が飛んでいく。だが、的に当てるのは難しいのか、当たっている人がいない。
先ほどのノワールとグルナディーヌは、キャラ設定があるだけあって、実力が違うのだろう。
ノワールはグルナディーヌと同じように、独自の色の制服を着ていた。白金に黒が入った制服。タイも黒だ。タイ留めのチャームまでは見えなかった。
「できなーい」
一際甲高い声が耳に届いた。ピンクの髪色の女子生徒が、緑の髪色の男子生徒に、「難しいね」と話しかけている。
ピンクの髪色であればヒロインのイメージだが、他にも薄いピンク色の髪色の生徒はいるので、キャラなのかNPCなのか判別できない。
私の立ち位置って、何になるんだろう?
主人公ならば、ヒロインになるのだろうか?
自分で言ってなんだが、申し訳なさが募る。百歩譲ってヒロインになるならば、赤とピンクの二人とはライバルになるのだろうか。
先ほどピンクと話していた緑の髪色の男子生徒が、不思議な魔法陣のようなものを空中に出して、手を使わずに弓矢を射った。
再び、おお、と歓声が上がる。
あれは攻略対象と見て間違いないだろう。手で触らなくとも矢を射るなんて、レベルが違いすぎる。
「あら、あなた、まだ用意されていらっしゃらないの? 成績に響きますわよ」
「成績に響くのはまずいよね! ちょっと待って、グルナちゃん、私、集中する!」
「そうなさいな」
集中、集中。
つぶやきながら、手のひらの石を握りしめて、頭の中でイメージする。
花奏は高校で弓道部に入っている。弓矢と言ったら弓道だ。だから想像はたやすい。
魔力などあるわけないが、想像していれば、石が温かくなってきた。うごめくように手のひらから石が伸びていく。それが花奏の身長より高く伸びると、しなって和弓ができあがった。矢も四本あり、装備品のように胸当てとかけが勝手にはめられる。
「グルナちゃん、すごい、見て! 変身。変身した!」
「あなた、その弓、大きすぎではないかしら。矢も四本もいらなくてよ」
変身はスルーされて、弓の大きさを指摘してくる。
だが、和弓の弓はこの長さである。矢が四本なのも、大会などで四本使うため、出てきたのだろう。
ついでに、和弓は矢を射ると胸に弦が当たる。ちなみに当たったら激痛である。そのため女子は胸当てという黒い防具をつけた。かけは弓を引く時の手袋なので、すべてセットでできあがったようだ。
「これ、竹弓だ。私が学校で使ってるの、カーボンの弓なんだけどな。引けるかな。なんか重そう」
竹弓は高価なので、学校の部活などで使われるものではない。イメージに憧れが入ってしまったようだ。弦を引く力に重量もあるので、花奏の力で引けるか不安になる。
普段通り礼をして、二本は床に置き、一本は小指で押さえたまま、花奏はゆっくりと弓に矢をつがえた。息を吐き吸って、的を確認する。
引きの重みは丁度いい。
口元まで引いて一呼吸、一気に放った。
あ、ど真ん中。
瞬間、矢は的を破壊すると、後ろのバリアを突き抜けた。それどころか教室の壁に突き刺さり、ドオオオオ、と音を出して爆発した。爆風が流れて、悲鳴が上がる。
「わぁ、ワンショットキルすぎるー……」
「あ、あなた、やりすぎですわ!」
「べ、弁償しなきゃかな!?」
これは成績どころではない。
バリアはバリバリと音を立てて、かろうじて残っていたが、的は復活せず、壊れた壁は一瞬ノイズが走ったように見えた。先生はバグったように、「あなたは、あなたは!」と同じセリフを何度も続けている。
「先生、スタックしてる?」
花奏を指差しするポーズで、「あなたは、あなたは」と続けたまま、そこから動かない。
爆発してしまったので、乙女ゲーがバグったのか。
弓矢は消えて、変身も元に戻った。ただ壁からは煙が出て、先生はスタックしたまま。的も元に戻らないのに、生徒たちが並び始めている。誰も避難しようとか、先生に声をかけるとか、何もしない。完全なバグだ。
乙女ゲーがバグった場合、自分はどうなるのだ?
それを考えて、花奏は背筋が凍りそうになった。
乙女ゲーが壊れた時、この世界にいる自分はどうなるのだろう。
青藍に報告しなければならない。一大事だ。
「この教室は危険ですわ。みなさん、外に出られて!」
グルナディーヌの声にハッとすると、ノワールが「もう練習できないな」と言いながら、教室を出ていく。それに追従して、生徒たちが教室から出始めた。スタックしていた先生も、やっと動きだす。
グルナディーヌが主要キャラだからか、彼女の言葉は聞くようだ。
炎は出ていないので、教室は燃えたりしないと思いたい。
次の場所に行ったら、元に戻っていることを祈っておく。
弁償しなければならないのか不安になったまま、みんなが教室を出ていくのに混じり、花奏も廊下に出ると、なぜかそこに白銀の髪を持った男、白キャラが、花奏をにっこり笑顔で迎えた。
青藍への報告が、増える気しかしなかった。




