3 魔力
現在わかっていること。
花奏が住む場所は、寮という名のシェアハウスで、赤を基調としたキャラ、グルナディーヌが一緒に住んでいる。
友人の同人誌の情報では、グルナディーヌは主人公のライバルと称されていたが、違うかもしれない。彼女はかいがいしく花奏を構ってくれるからだ。
おそらくグルナディーヌは、物語を進めるのに必要な案内役なのだろう。次はどこに行くのか、何をするのか、花奏の動きを逐一指示してくれる。ライバルなのかもしれないが、最初の案内を担っている気がする。
今日も一緒に学園へ来て、教室に一緒に入った。
友人曰く、「ツンでめちゃくちゃかわいいのよ!」
今のところ、ツンは見られず、世話焼きのとても良い人だ。
「あなたはもう少し早く起きられたらいかが? わたくしまでだらしないと思われてしまいますわ。昨日に続き、今日も遅刻寸前ですのよ? ああほら、髪が乱れてましてよ。きちんとなさって。背筋を伸ばして、猫背にならない!」
ツンというより、おかんである。
入った教室は体育館のように広い場所で、同じクラスの生徒なのか、多くの人たちが集まっていた。
その中に、入学式に登壇した白のキャラはいないようだ。祝辞を述べたのだから、彼は年上で、同じクラスにはならないのだろう。
「みんな、髪色すごいなあ」
ざっと見回しても、花奏の髪色は花奏だけ。グルナディーヌの鮮やかな赤は一際目立ち、他に緑やピンク、紫や水色、オレンジ、なんでもござれだ。一番暗くて黒。次に花奏の焦茶色である。
髪色がはっきりしている生徒には近付かない方が良いだろう。攻略対象の可能性が高かった。
夜眠る時に、目覚めたら元の世界。と願ったが、それは叶わなかった。ならば卒業するしかないのだ。花奏の目標は、平穏に学園を卒業することである。
「では、みなさん。石は手にしましたか? 本日はあなた方の実力を知る、初めての授業になります。まずは二本の石を使って弓矢を作り、できた人からあの的に矢を放ってください」
先生らしき女性が説明をして、柏手を打った。それだけで、生徒たちが動き出す。
石二本で、弓矢を作る?
花奏も渡された、棒のような細長い小さな石が二本。手のひらに入るサイズだ。それを弓と矢の形にし、的を射ろと言う。
「グルナちゃん、どうすればいいの?」
「ぐるなちゃん!?」
「グルナディーヌって、私には発音が難しくて。ブランちゃんがいい? ドゥちゃん?」
「……グルナにしてちょうだい」
「ねえ、グルナちゃん。石二本をどうやって弓矢にするの?」
「想像するのよ。ああ、あなたは魔法を習ったことがなかったのでしたわね」
そういう設定なのか、グルナディーヌは石を弓矢にする方法を教えてくれる。
石を手に乗せて、魔力を流し、頭の中で弓矢を想像して、石を変形させるとのこと。
「聞いてらっしゃるの? やる気が見られませんわ!」
「ま、りょくを、流す?」
「魔力の流し方も知らなくて? はあ、そうですわよね。あなたはそういったことをまったくご存知でないと、知っておりましたわ」
グルナディーヌは花奏のすべてを知っているとでも言わんばかりだ。実際知っているのだろう。そういう設定であるため、問えばなんでも教えてくれそうだ。
「魔力はあるってことだもんね」
「魔力がなければ、この学園には入れませんことよ。いいこと? 集中するだけで良いのです。身体中のすべての感覚を、手のひらに、石に、集めるように、手の中に集中するのです」
すると、グルナディーヌの石が赤い煙のようなものに巻かれると、うねうねと動き出し、次の瞬間には、抱えられるほどの弓矢に変形した。
「すごーい!」
「これくらい、簡単ですわ」
グルナディーヌの弓矢は、キューピットが持つような、さほど大きくない弓矢だ。弓は上下がくるりと弧を描いており、持ち手の上下にバラの花があしらわれていて、芸が細かい。矢尻は赤だが、ハートでないのが残念だ。
「グルナちゃん、かっこいい!」
「当然でしてよ。あなたもやってごらんなさいな」
言われて花奏もイメージしようと思う前に、すでに弓矢を作り、的を狙っている生徒がいた。
黒髪の、癖毛の男子生徒だ。
的はサッカーボールくらいのサイズの板だが、離れているのでとても小さく見える。その的の後ろは青白い光に覆われている。壁が透けて見えるので、青白いバリアのようだ。
「あれは魔法なのかな?」
そう呟いた瞬間、黒髪の生徒の矢が放たれた。
バキイン。と大仰な音が鳴り、的を壊すと、その後ろの青白い壁にぶつかって、バリバリと音を立てる。
ワッと歓声が上がった。
「すごい、結界を貫いている!」
別の生徒が説明するように言ってくると、また別の生徒が、
「さすが、ノワール・モンテルラン王子だ!」
と名前と役柄まで言ってくれる。
まるで説明文のようだ。つまりあの黒髪は攻略キャラなのだろう。王子というのだから、間違いない。モブで王子などないはずだ。
ノワールは何事もなかったように弓を石に戻し、くるりと的を背にする。その姿を見ていたら、ノワールと目が合った。どこか影のある雰囲気は、いかにも黒を基調にしているだけある。目付きは鋭く、長い前髪が片方の目元を隠していた。
クール系か。それとも無口系か?
しかしノワールは、なぜか花奏を見て、にこりと微笑んだ。
その微笑みは王子らしく、爽やかさがあり、影のある雰囲気は一掃されていた。
そして他の生徒たちに囲まれると、ありがとう。とにっこり笑顔を作る。
「黒系キャラっぽくなくない?」
微笑まれてドギマギしてしまった。女生徒たちもノワールを熱い目で見ている。
恐るべし、王子キャラ。




