『盗賊は、毒と愛を天秤にかける』
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前回、無理やり(?)旅の仲間に加わった猫舌神官・クライ。
今回は、魔王軍の検問所を舞台に、影のように鋭い「あの子」が牙を剥きます。
不器用な彼女が抱える「孤独」とは……。
「……おい、クライ。いつまで熱がっている。出発するぞ」
(クライ)
「あうぅ、待ってくださいアルス殿。先ほどの朝食のスープが、まだ舌の奥で暴れていまして……」
クライが半泣きで舌をパタパタさせている間に、俺たちは『鉄の城壁街』の検問所に差し掛かっていた。
ここを抜けなければ魔王の城へは近づけない。だが、門を固めるのは重装歩兵の小隊だ。
(アルス)
「真正面から斬り伏せるのは手間だな……」
(クライ)
「アルス殿、無茶はいけません。何か、音を立てずに潜り込む方法は……」
その時だった。
俺たちの頭上、検問所の屋根を「影」が走った。
風さえ切らぬ密やかな動き。その影は、警備の兵士が欠伸をした一瞬の隙を突き、腰に下げられた鍵束を魔法のような手捌きで抜き取った。
(アルス)
「……! あの動き、ただの人間じゃないな」
俺たちは吸い寄せられるように、その影を追って路地裏へと足を踏み入れた。
そこで見たのは、数人の兵士に囲まれ、袋を背負って短剣を構える一人の女だった。
(兵士)
「観念しろ、ドブネズミめ。盗んだ食料を返せば、楽に殺してやる」
(???)
「……けっ。誰が返すかよ。これは、あんたらが民衆から巻き上げたもんだろうが」
女の声は低く、そして鋭かった。
しかめっ面で、身体中には戦い抜いてきた証のような細かな傷跡が刻まれている。
兵士が槍を突き出した瞬間、俺は聖剣を引き抜いた。
(アルス)
「――そこまでだ」
一閃。槍の穂先を叩き折り、俺は女の前に立った。
慌てふためく兵士たちをクライの神聖魔法(目眩まし)が包み込み、俺たちはその隙に女の手を引いて暗がりに逃げ込んだ。
(???)
「……離せよ! 恩に着せようってんなら、お門違いだ!」
安全な場所まで逃げ延びると、女は俺の手を振り払い、鋭い眼光を向けてきた。
(クライ)
「そんな、私たちはただ助けたくて……。あ、お怪我はありませんか?」
(???)
「……フン、お節介な神官様だね。アタシはシール。見ての通り、闇を歩く盗賊さ」
シールと名乗った女は、背負っていた袋の中身――わずかな干し肉とパン――を愛おしそうに整えた。
それが、孤児院の子供たちのためのものだと気づくのに、時間はかからなかった。
(アルス)
「その傷、魔王軍とやり合ったのか?」
(シール)
「……ああ。誰にも頼らず生きていくには、これくらいの代償は必要だろう? あんたみたいな、立派な聖剣を持った『勇者様』には分からないだろうけどさ」
シールの言葉には、棘があった。
だが、その瞳の奥には、クライと同じ「守りたいもの」への執着が見えた。
(アルス)
「……シール、と言ったか。俺たちと一緒に来い。お前の『闇を歩く技術』と、その覚悟が必要だ」
(シール)
「はあ!? なんでアタシが、こんな暑苦しい筋肉ダルマと、スープもまともに飲めないヘタレ神官と組まなきゃならないんだよ!」
(クライ)
「ヘ、ヘタレ!? ……否定はできませんが、シールさん。あなたの毒の知識や、街の裏路地を知る力があれば、救える命がもっと増えるはずです」
(シール)
「……チッ。勝手なこと言いやがって」
シールはそっぽを向いたが、その耳はわずかに赤くなっていた。
これまで、奪い奪われる世界で生きてきた彼女にとって、「必要だ」と言われることは、何よりも甘い毒のような誘惑だったのかもしれない。
(シール)
「……いいだろう。アンタらがアタシを裏切らない限りは、その背中を守ってやるよ。その代わり、報酬は高いからね!」
(アルス)
「ああ。……よろしく、シール」
こうして、俺の旅は三人になった。
筋肉と、猫舌と、毒舌。
一歩進むたびに騒がしくなるこの旅が、俺の「孤独」を少しずつ削り取っていく。
三人目の仲間、シールが加入しました!
しかめっ面で不器用な彼女ですが、これからクライとの「スープ冷まし攻防戦」が始まります(笑)
ちなみにシール、実は腹筋が綺麗に割れているのが自慢だったりします。
アルスの筋肉とはまた違う、しなやかな「戦う肉体」にご注目ください!
次回、第4話「常人を超越した探求者、魔法使いルール」。
いよいよ最後の仲間、自称「魔法バカ」の少女が登場です。
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