【最強の神官は、驚くほどの猫舌でした】
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前回、孤独に村を飛び出した脳筋勇者アルス。
今回、そんな彼の「ぼっち旅」をぶち壊す、史上最高に厄介で優しい神官が現れます。
荒れ果てた街道。
村を出てから数日、俺はひたすら歩き続けていた。
魔王の瘴気のせいで、景色は灰色。時折聞こえるのは、飢えた魔物の遠吠えだけだ。
「……ふん、丁度いい。筋肉のいい準備運動になる」
俺は背中の聖剣に手をかけた。一人の方が身軽だ。食事も、睡眠も、全て自分のペースで決められる。
そう思っていた、その時だった。
「ひぃぃぃっ! 神様、仏様、筋肉様ぁっ! 助けてください!」
……なんだ、今の情けない叫び声は。
声のした茂みを覗き込むと、そこには泥だらけの神官服を着た男が、三匹のゴブリンに追い詰められていた。
(クライ)
「私は食べても不味いですよ! ほら、見てください、この細い腕! 筋肉も脂肪も足りていませんっ!」
(アルス)
「……チッ、面倒な」
俺は地面を蹴った。
重い聖剣を抜き放ち、一閃。魔導を一切通さない「鉄塊」が、ゴブリンたちの武器ごと肉を断つ。
数秒。そこには、返り血を浴びた俺と、呆然と腰を抜かした神官が残された。
(クライ)
「……あ、あの。あなたが、助けてくださったのですか?」
(アルス)
「礼はいらん。さっさと自分の神殿に帰れ。ここは素人がうろつく場所じゃない」
(クライ)
「そ、そうはいきません! 私は神の呼び声を聞き、絶望した人々を癒やすために旅をしているクライと申します。命の恩人を放っておくなんて、神罰が当たります!」
クライと名乗ったその男は、ひょろりとした長身(183cm)のくせに、妙に食い下がってきた。
結局、日が暮れるまでに安全な場所が見つからず、俺たちは焚き火を囲む羽目になった。
(アルス)
「……(一人の方が楽だったのに)」
俺は無言で干し肉をかじる。
すると、クライが申し訳なさそうに、大切そうに抱えていた水筒からカップにスープを注いだ。
(クライ)
「あの、アルス殿。これ、温かいスープです。少しですが、召し上がれ」
(アルス)
「いらん。自分で飲め」
(クライ)
「そんなこと言わずに。神の恵みを分かち合いましょう……。では、お先に……あ、あちっ! あうぅっ! アッヂッ!!」
(アルス)
「!? 敵か!?」
慌てて剣を構えた俺の目の前で、クライは涙目で舌をパタパタさせていた。
(クライ)
「い、いえ……スープが、熱くて……。私、昔から極度の猫舌でして。あうぅ、舌がヒリヒリします……」
(アルス)
「…………」
なんだ、こいつ。
魔王軍の幹部を倒すよりも、目の前のスープ一杯を飲む方が大変そうじゃないか。
(クライ)
「アルス殿、笑わないでください。……でも、温かいって、いいですよね。あの日、神様の声を聞いた時も、こんな風に温かかったんです」
(アルス)
「……神の声?」
(クライ)
「はい。世界を救う『光』が、いずれ現れる。その光を癒やし、支えるのが私の役目だと。……もしかしたら、それはあなたかもしれません」
(アルス)
「馬鹿を言え。俺は魔法も使えない、ただの筋肉ダルマだ」
(クライ)
「いいえ。あなたの背中は、誰よりも寂しくて、誰よりも強かった。……決めました! アルス殿、私をあなたの旅に連れて行ってください!」
(アルス)
「断る」
(クライ)
「猫舌が治るまででもいいですから! お願いします!」
こうして、俺の「孤独なはずの旅」に、史上最高に騒がしい相棒が加わろうとしていた。
ついに一人目の仲間、クライが登場しました!
筋肉勇者と猫舌神官。前途多難すぎるコンビですが、ここからどう絆が深まっていくのか。
ちなみにクライ、実はまだ女性の手も握ったことがない「純潔すぎる神官」だったりします。
次回、第3話「盗賊は、毒と愛を天秤にかける」。
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