俺が助けた女の子は俺が払うはずの妖怪だった話
俺が助けた女の子は俺が払うはずの妖怪だった話
刀を持ち、抜刀────
《妖刀:神無月》そう名付けられたこの刀は"酉"の力を有する。
真っ白な刀身が小鬼を斬り、空っぽになったそれがそこら中に転がっている。
今日も俺は妖怪を祓うために生きている。俺がこの仕事を志すきっかけがあった。
♢♦
「あっちいけ!」
木の棒を持って必死に振り回した。
一人の少女を助けた記憶。俺と同じ位の年だった。
「あ、ありがとう…」
「き、きにすんな!」
振り返ると涙を浮かべる少女がいた。
「なくなよ」
「だ、だって…」
「これ、やるよ」
「これは…?」
「まつりでもらったんだよ。おんながつけてるやつだからおまえにやる」
緑色のペンダント、それを彼女に手渡したことを覚えている。
あれから数年。あの時の女の子に俺は────
♢♦
「駿くん、今日の任務はなんだっけ?」
話しかけてくれたことで我に返る。
「あ、、え?」
隣で移動していた俺と同じ『怪者払い』の少年、天木司がいた。茶髪で顔の良い糸目の男。ミステリアスな男で俺と同じ高校に通っている。
って、そんなことよりも質問に答えないとな。
「今日は小鬼が出たってさ。既に何人かが対処に行ってるけど人数が足りないらしい」
「おーけー、なら終わってからが大変やな」
俺達は────
《怪者払い》
それは日本で秘密裏に動く国直属の組織。妖怪からの侵略を未然に防ぎ、人間を守るために俺達は日夜活動している。
この国の人達が何も心配せず暮らしていけるために。
この仕事は公になっていない。妖怪は空想上のものであると現代人に信じ込ませるために。
そして、俺の名前は楠木駿太郎。雨蘭高校に通う高校生。『怪者払い』の試験に合格して5年。未だに現れる妖怪を払うために俺達はこうして働いている。
「みんなどの辺りおるって?」
「山の中腹で払ってるって中谷さんから連絡来てたな」
「なら、急ぎましょかねー」
速度を上げる俺に司はついていく形で目的地へと向かった。
地図はもらってなくても移動できる。俺は特別眼が良い。
少し走ったところで血の匂いがした。この辺りで戦いがあったのだろう。俺達はギアを上げる。
だんだんと声が聞こえてくる。歓喜の声ではない、悲痛な叫び声だ。
目的地に着いてから俺達はすぐに刀を抜いた。
俺の持つ妖刀『神無月』は『十二支刀』と呼ばれる特殊な刀だ。刀身は真っ白で斬っても斬ってもその刀身の色は変わらない。
雪のように真っ白で儚い刀────
「来たで、後ろ任せてええよな?」
「それに答えはいらないだろ」
「あぁ、そやな」
どこからともなく小鬼が現れる。小鬼はそれぞれ姿形が微妙に違う。痩せた鬼から筋肉質な鬼まで様々だった。ただ、その全てが体長約100cm程だ。
「ほな、仕事しましょうかね」
小鬼達は落ちている石や砂を投げつけてきた。目くらましのつもりだろうがそんなことが邪魔になる俺達では無い。
背後は司に任せて俺は目の前の敵を倒すだけだ。
投げつけられた石を弾き飛ばし、俺は一歩踏み出す。
間合いに入り刀を振り下ろすと小鬼は真っ二つに分かれてその場に倒れ込む。隣にいた小鬼も同様に斬ったところでへたりこんだ小鬼の首を飛ばした。
「数が多いな」
妖怪は人を襲う。だから俺達はこうして動いている。未然に防ぐことが何より大事になる。
「司、中谷さんはどこら辺にいる?」
「俺も分からへんわ。この辺で同じように討伐中やろ」
仲間の安否も気になるが小鬼の数が多すぎる。いくら弱い妖怪といえど数に勝る力はない。
小鬼を退治していく中で2人は山の頂上へ向けて移動する。
「こりゃ小鬼引き連れて挨拶行かなあかんなぁー」
「本当にそうなりそうだからあんまり口に出すんじゃない」
刀を振り続けてから時間が経った。辺りに小鬼の亡骸が散らばっている。
ようやく一息ついた俺達だったが直ちに移動を開始する。
森を抜けて広場に出た時、俺達は唖然とした。俺たちの視界には中谷さんがいる。30代の無精髭を生やした男性。だが、それよりも先に目に映る鬼の姿。
「2人とも来たみたいだな、助かった」
その声をかき消すように雄叫びを上げる大きな身体の鬼がいた。長い角が頭から二本生えており、大きな牙が口から覗いている。筋肉質な身体には鎖が巻かれそれを大きく振り回している。鎖の先には鉄球がついており、振り回す度に風を切っている。
「中谷さん、援護します。他の人達は?」
「俺ともう数人で来ていたが一人殉職した。残りは小鬼を払いに行ってる」
「分かりました、司行くぞ」
「言われんでもそうさせてもらうわ」
俺達が動いた直後、鉄球が俺に目掛けて飛んでくる。それを地面を蹴って横に避ける。
『ぐがが、避けるか』
鬼のドスの利いた声がした。
と同時に中谷さんと司が鬼の間合いに入る。
「ほんまそんなもん振り回すなや」
司の刀が鬼の体を捉えるも鎖が邪魔をして刀が弾かれる。
中谷さんも同じく刀を振るうも鬼が大きな身体を動かして距離をとることで避けられる。
中谷さんが舌打ちをする。
「駿太郎くん、大丈夫かい?」
「大丈夫です」
大きな鉄球が動き、2人はそれを警戒する。蛇行するように動いた鉄球を2人は避けて距離をとる。
「あの鎖が邪魔やな。思ったより斬れるとこが限られとる」
「あぁ、さぁどう戦うか」
俺がそう呟いた直後、一際大きな叫び声がした。
3人はその声の方向を振り返る。
「なんやさっきの声」
「分からないが明らかに女性の声だったようだが…」
女性の声…?つまり、一般人の可能性がある。これは、動くしかない。
「俺が行くから司は中谷さんを援護してくれ」
「おーけー、気いつけや」
「じゃあ司くん。俺達で討つよ」
俺は2人に大きな鬼を任せて森の中へと入る。
声のする方へ急いで走る。
声がしてからまだ数十秒も経ってしまっている。鬼が人間を襲うのに何秒かかるだろうか。答えは否定的である。俺は嫌な想像をかき消し、声の方向へと走り、たどり着いた先で俺は目にする。
そこで俺が目にしたのは少女が小鬼に襲われているところだった。
「死ね」
すっと当たり前のように出た言葉を言い終える頃には小鬼の首は飛んでいた。血飛沫が辺りに舞い、少女は顔を背けていた。
「大丈夫ですか?もう安心です…っえ?」
俺と同い年くらいの少女が傷だらけでそこにいた。長い黒髪にキメの細かい肌に凛とした瞳。
襲われた今でもその瞳に闇はない。服装は軽装で白と黒の2色だった。何も持たず、ただ木にもたれ掛かっている。腕からは血が垂れ、襲われたことは確実だった。
少し遅かった、その言葉よりも先に俊太郎の脳には記憶が巡っていた。
この子どこかで……
「立ち上がれるかな?」
記憶の巡りを妨げるように自分の身体を動かし、少女に手を差し出す。
「はい…」
彼女は俺の手に触れる。
この子に触れて分かった。この子、妖怪だ。妖気の濃さが人間とは明らかに違う。
でも、この子は傷ついている…。
って何をやってるんだ俺は…。こいつは妖怪だぞ!?妖怪が妖怪に襲われていたところを助けたって言っても相手は妖怪だ。何を考えてんだ俺は…。
「ありがとうございます、助かりました」
「いや…これは…」
この世は弱肉強食。妖怪が妖怪を襲うことだってある。それに俺がしていることは妖怪を払うこと。
それは今の俺と何が違うんだ…。
妖怪と思われる少女に一応、大丈夫なのかと声をかけると少女は頷いた。
少女はぎゅっと胸の前で手を握っている。
「立てるか?」
風が吹き、気が揺れ月光が俺と少女を照らす。
「はい…。え、あ、君は…」
そう言って、手を差し出した妖怪の首には緑色のペンダントが見えていた。一目見て分かった。見たことがあるペンダントだと。
「おまえ…」
俺は刀を向ける。
たまたまそう見えただけだ。
俺があの子にあげたペンダントをかけた妖怪がいた。たまたま似ているだけ、いや違う。
同じだ。だから俺は刀を向けているんだ。俺が見間違えるはずがない。
「駿太郎ー!終わったからはよ帰るでー」
「あぁ!それよりも…」
振り返ると既にその女の子はいなかった。
「逃げられたか…」
その日は残党を倒し終えたところで帰路についた。
一般人には『令気』と呼ばれる気を放ち、記憶の改ざんを行う。そうして、今日の出来事から妖怪の記憶を無くす。また、現在はインターネット等SNSで投稿されることもあるため、確認され次第処置を行っている。
少々バレることは仕方がない。噂、都市伝説等に留まるなら良いというのが上層部の判断らしい。
「ほな、また明日学校でなー」
俺達は制服に着替えてから自宅に帰る。
「ただいま」
帰ってくる言葉はない。親と妹は実家にいる。俺は一人暮らしをしている。日夜『怪者払い』として仕事しているため、怪しまれるからだ。
シャワーを浴びたあと着替えた。
その日はすぐに寝た。あの妖怪の持っていたペンダント。あれはあの女の子にあげたものだったと思ったが気のせいだったのかもしれない。
ちゃんと見ていなかったからだ。それに、昔の事だからよく覚えているわけではない。
もう何年も前の話だ。もしそうだとしても落としたりしてそれを拾っただけかもしれない。
そういえば妖怪の少女があのペンダントを大事そうに胸の前で握っていた。とても大事そうに。
「考えても仕方ないか」
それから数日後、俺は驚くこととなる。
♢♦
「東京から転校してきました。朝凪玲依です」
今日、俺のクラスにきていた転校生。
朝凪玲依、その少女を見て俺は絶句した。
長い黒髪にキメの細かい肌に凛とした瞳。薄い唇からはほんのり色気を感じる。美少女、出会った者は皆彼女のことをそう伝えるだろう。
だが、俺はその顔を知っている。
その顔は昨日逃げた妖怪の少女そのものだった。他人の空似とかそういう事は絶対にない。
何故なら…。
首に下げられたペンダント。それが何よりも証拠だった。
しかし、そのペンダントの色が緑色ではなく、赤色だったことを除けば────
続きはいずれ。
妖刀と妖怪が好きなのでそういう設定で今後も小説は書いていきたいです。
先日、投稿も始めました。よかったら見てくださーい
よろしくお願いします




