現代最弱の退魔士、異世界を行き来できるようになり、最強唯一の魔法使いとなって無双する〜霊力のない無能は要らぬと実家を追放された俺、異世界で魔法を習得し現代に戻る。今更土下座されても戻りません
連載候補の短編です!
「翔馬。お前を、この【霧ヶ峰】の家から追放する。出て行け、この出来損ないの屑が!」
……俺の名前は【霧ヶ峰 翔馬】。高校一年生、十六歳。
俺は、退魔士と呼ばれる特殊な家に生まれた。
現代の日本には、【妖魔】と呼ばれる、一般人には見えない化け物が存在する。
そいつらを人知れず退治するのが、退魔士の役目だ。
場所は霧ヶ峰の屋敷の庭。
地面に這いつくばる俺を見下ろしているのは、【霧ヶ峰 毒尾】。霧ヶ峰家の現当主だ。
「……そんな、どうして……?」
「どうして? 決まっておる。翔馬、お前は【試しの議】に失敗したからだ」
試しの議。
十六歳になった退魔士が受ける、成人の儀式のことだ。
目の前には、ハエのような醜い姿の妖魔が、宙に浮いている。
「十六になった退魔士は、己が本当に妖魔と戦えるか証明するために、最低級の妖魔──虫怪と戦う。それが、試しの議だ」
毒尾が言葉を継ぐ。
「だが翔馬は、虫怪を倒せなかった! 名門・霧ヶ峰の家に生まれながら、虫怪一匹倒せぬとは……次期当主の資格などない! よって貴様を追放する!」
……うつむく俺。
もう決定は覆らない。俺は、この家から追い出される。
「お、俺は……これから、どうやって生きていけば……」
「知るか。翔馬、お前はもう霧ヶ峰の人間ではない。面倒を見る義理もないわ」
「そんな……」
落ち込む俺をよそに、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて近づいてくる男がいた。
「おやおやおや、兄上ぇ〜。やっぱり失敗しちゃいましたねぇ〜」
「……駄馬」
俺の双子の弟、霧ヶ峰 駄馬。
……双子なのに、俺とはまるで違う見た目をしている。
俺は百キロオーバーの巨体だが、あいつはスラッとしている。身長は少し低いけど、甘いマスクに大きな目。
「最初から分かってたよ。ぶた君は運動もできない、霊力もゼロ! 退魔士失格の屑だってさ〜! ぎゃははっ!」
俺を「ぶた君」と呼び、見下して笑う駄馬。
でも……言い返せない。事実、運動音痴だし、何より──退魔士なら誰もが持つ霊力を、俺は持っていなかった。
「ぶた君はそこで見てな。僕が、霧ヶ峰家の当主になるところを!」
駄馬は使用人から木刀を受け取り、構える。
「はぁっ!」
木刀が青白い炎に包まれる。霊力──魂から発せられる霊的エネルギーだ。
その木刀を駄馬は振りかぶり──
「しねええええええええええええええええええ!」
虫怪を真っ二つに斬り裂いた。
妖魔は塵となって消滅する。
「おおっ! 駄馬よ、よくやった!」
毒尾が満面の笑みを浮かべて駄馬に駆け寄る。
「今日からお前が、霧ヶ峰家の当主だ!」
「はっ! 承知しましたぁ!」
にちゃあ……と勝ち誇った顔で、駄馬が俺を見た。
……これで完全に、俺の居場所は消えた。
「何をじろじろ見ている。さっさと出て行け、翔馬。もう用済みだ!」
……悔しい。でもここは、退魔士の家だ。
妖魔を倒せない人間に、価値はない。
「…………分かりました」
俺は踵を返し、屋敷をあとにする。
使用人たちは、誰一人として声をかけてこなかった。
……孤独だ。
「翔馬……」
屋敷の門の前に、女の子が立っていた。
幼なじみであり、婚約者でもある【大桑 しめ子】。
大桑家もまた、名門の退魔士一族である。
「翔馬……どうだったの? 試しの議」
「……ごめん、しめ子」
……申し訳なかった。しめ子は今日まで、ずっと俺を励ましてくれていた。
「いつかきっと、すごい退魔士になれるよ」って……。
幼いころから、俺のことを支えてくれた。だからこそ、申し訳なくて──
「あっそ。やっぱりね」
はぁ……と、しめ子はため息をついた。
「え……?」
「どーせこうなると思ってた。だって、あんた霊力ゼロの屑じゃん」
「え……? え……?」
……なんだ、その態度。
俺の知ってるしめ子じゃない。
「今まで優しくしてあげてたけど、時間の無駄だったわ〜」
「ど、どういうことだよ……時間の無駄って」
「言葉通りよ、翔馬。あんたが次期当主になると思ってたから、優しくしてあげてただけ」
「なっ……!?」
優しい子だと思ってた。ずっと信じてた。
でも違ったんだ。
「あ〜あ、がっかり。もう二度と顔見せないでよ、ぶた君」
「!?」
……ぶた君。まさか、その呼び方まで……。
「あ〜ん、駄馬ぁ〜♡」
しめ子は俺の前を素通りし、駄馬のもとへ駆け寄って抱きつき、キスをした。
「やあ、しめ子。今日、正式に僕が当主になったよ」
「やったぁ〜♡ やっぱりあなたこそ霧ヶ峰家の当主よ。あんなぶたなんかより、ずっとずぅ〜っと素敵♡」
……なんだよ、それ。
「昔からずっと」って……。
駄馬がキスを返し、しめ子は当たり前のように受け入れる。
二人が自然にキスしてるのを見て……ようやく気づいた。
「しめ子……お前、浮気してたのか!」
駄馬は何も言わず、にやりと笑う。
「失礼ね。別に付き合ってたわけじゃないでしょ? 婚約者ってだけで」
「婚約してるのに他の男とイチャついたら、浮気だろ!」
「違いますぅ。結婚してないし、付き合ってもないんだからぁ、浮気じゃありませぇんw」
……今日は、最悪の日だ。
家から追放され、婚約者には裏切られ、家族からも見放された。
「さっさと消えな、翔馬」
「ばいばい、ぶたく〜んw」
「もう二度と会うことはないでしょうけどね〜! きゃははは!」
……。
…………。
………………気づけば俺は、一人で街を歩いていた。
いつの間にか雨が降っていた。
ずぶ濡れになりながら、歩道をとぼとぼ歩く。
「これから……どうすればいいんだ……」
高校はもう通えないだろう。家を追い出された俺に、親が学費を払ってくれるとは思えない。
バイトでもするか?
いや……やったことすらないし、未成年・住所不定の俺を雇ってくれる場所なんてない。
……インフルエンサーでもやって稼ぐ?
はっ。ぶた君にそんな才能があるわけないだろ。
つまり──俺の人生は、終わったんだ。
「……もう、死にてぇ」
そう思った、そのときだった。
「危ないっ!」「逃げろーっ!」
「……え?」
顔を上げると、目の前にトラックがいた。
──運転手と目が合う。真っ赤な顔で、ぐーすか眠っていた。
飲酒&居眠り運転かよ……。
トラックは俺のすぐ目の前まで迫っていた。
「ははっ……」
俺は、笑っていた。なんだよ、神様。
願いを叶えるの、爆速すぎるだろ。
霊力が欲しいって何年も祈っても叶わなかったくせに、死にたいと思ったときだけは、すぐ叶えてくれるんだな。
──ぐしゃりっ。
★
……俺はトラックにひかれて死んだ。
……はずだった。
「…………」
なんだか、まぶしい。目を開けると……そこには、知らない天井があった。
「あれ……? 俺……死んだはず、じゃ……?」
俺は自分の両手を見る。……手がある。体をゆっくりと起こす。そう、体が自由に動くのだ。
トラックにひかれたはずなのに……。
「どうなってんだ……?」
と、とにかく……状況を把握しないとだな。
俺は周囲を見渡してみる。
天井。窓。そして……ベッド。どうやら俺は、どこかの部屋の中にいるらしい。
窓の向こうには、よく晴れた空が広がっている。
……窓ガラスに映っているのは、醜く太った俺──霧ヶ峰 翔馬。
なんだ、ラノベや漫画でよくある異世界転生かと思ったが……。
どうやらそうではないらしい。なんだよ……。
「それにしても……どういう状況なんだ、これは……?」
少し、整理しよう。俺は実家を追い出されたあと、トラックにひかれて死んだはずだ。
で、目が覚めたら、五体満足でここにいる。まったく見覚えのない小屋の中で、寝かされていた……。
「まじでここどこなんだ……?」
窓から見えるのは、森の木々。どうやら森の中に、この建物(?)はあるようだ。
俺はベッドから降りて、部屋をぐるりと見渡す。
ふと、目につくものがあった。
「なんだ……置き手紙……?」
木製の机の上に、一枚の便せんが置かれていた。
なんだ、これ……?
気になってそれを手に取り、目を通す。
【霧ヶ峰 翔馬くん。ようこそ異世界へ。ここにあるものは、好きに使っていいからね】
「…………」
……俺に宛てられた手紙のようだった。しかし、差出人の名前はない。誰だよ、書いたの……。
「訳わからんことだらけだ……」
唯一わかっているのは……
「ここが異世界ってことくらい、か」
いや、いや。異世界って。いや、ねえだろ。何の冗談だよ。
確かに、トラックにひかれて異世界に行くって話は聞いたことがある。だが、ああいうのはアニメや漫画──つまり、作り話だ。
……でも、じゃあなんでトラックにひかれて、俺は無事なんだ……?
異世界に転生したからじゃないのか?
「……もしここが、本当に異世界っていうんだったら……。す、ステータスオープン」
なんとなく、言ってみた。異世界もののアニメでよくやってるからな。初手、ステータス確認。
~~~~~~
【名前】霧ヶ峰 翔馬
【種族】人間
【レベル】1
【HP】100
【MP】100
【攻撃】10
【防御】10
【知性】10
【素早さ】10
【職業】まれびと
【スキル】鑑定、アイテムボックス、獲得経験値増加、限界突破
~~~~~~
「な!? は……!?」
……ステータス画面、だよな。ゲームやアニメでよく見るような。
自分の力を数値化したものが、目の前に出現した。
「こ、これ……まじなのか……」
表示された半透明の板を、何度も見直す。ほおをつねってみる。
……夢では、ない。のかもしれない……。
「か、【鑑定】」
とりあえず、スキルを使ってみることにした。
~~~~~~
超安眠ベッド(レア度S)
→魔道具。1分横になるだけで、8時間睡眠を取れる。
HP、MPが全回復する。
~~~~~~
「は……!?」
どうやら、俺の寝ていたベッドはただのベッドじゃなかったらしい。
1分横になると、8時間睡眠……!?
ほんとなのか……?
いや、でも、確かにものすごく頭がすっきりしてる……気がする。
なんだ、このベッド……。
魔道具って言ってたけど……。
~~~~~~
魔道具
→魔法効果が込められた道具。
レア度はFが最低、Sが最高
~~~~~~
「な、なるほど……魔法効果……魔法? そんなもんあるのか!」
確かにアニメとかじゃ、異世界に魔法があるのはむしろ当然だ。
~~~~~~
魔法
→自身のMPを消費し起こす、奇跡の技。
炎の玉など属性をおびた生成物で敵を攻撃、あるいは敵からの攻撃を防ぐ【属性魔法】。
空を飛ぶ、窓をきれいにするなど攻撃に使われないものを【無属性魔法】。
魔法はこの二つに大別される
~~~~~~
ゲームなどで見られる、いわゆる魔法と同じようだ。
「MPがあれば使えるってことは……俺も使えるのか……?」
先ほどのステータスを思い出す。俺には、MPが100あった。
そう……魔法を使うための力が、俺の中にはあるようだ。
「……使ってみてえ」
そんなアニメやゲームで見るようなもんが、実際に使えるなら──使ってみたい。
俺は右手を前に出す。そして……。
「ど、どやって魔法使えば良いんだ……?」
肝心の使い方がさっぱりわからない。
「なんか教本的なもんないかな……」
この部屋には本棚があった。
その中の1冊を、適当に抜いてみる。
【%OJG<#3】
「は……? なんこれ……? なんて書いてあるんだ……?」
とりあえず、この文字を鑑定してみる。
~~~~~~
【%OJG<#3】
→異世界語で書かれた書物。『魔導書 初級編』
~~~~~~
「なるほど、異世界語か……。異世界語……?」
~~~~~~
異世界語
→異世界ジンナーの共通言語。なお識字率は低い
~~~~~~
「そっか……異世界だもんな。言葉も使う文字も違うか……」
……でも、異世界転生モノとかだと、最初から聞けて喋れて読めるのが普通じゃなかったか……?
不親切なやつだ。俺をここに送り込んだやつは……。
「鑑定スキルがあるから、読みはできるけど……問題はそれ以外だな」
自分で書くこと。異世界人の言葉を喋ったり、聞いたりすること。それが……できない。
なんとも不便だ。ここで暮らすつもりなら、なおさら。
外国にいるのと変わらない、というか……。
「……暮らしてく、ここで……?」
……現実世界。俺は、退魔士の家系に生まれた。
でも、落ちこぼれの退魔士だ。向こうに戻っても、地獄が待っている。
じゃあ、こっちで暮らすか?
言葉も通じない異世界で……?
……どっちのほうがマシだろうか。どっちもどっちだ。
向こうに帰れば地獄。こっちには孤独。……いや、この小屋の外にも世界はあるだろうけど。
でも、言葉も常識も知らない世界で……生きていけるかという不安は、ある。
「……やめだ」
ネガティブなことを考えても、気分が悪くなるだけだ。
とりあえず、今はこの魔導書とやらを読んでみよう。
~~~~~~
魔導書
→最初から最後まで読むと魔法が身につく本。初級、中級、上級が存在する
~~~~~~
なるほど……これを一冊読み通せば、魔法が身につくらしい。
当然ながら、異世界語で書かれている。
鑑定を使えば、少しずつ読める。が、時間はかかりそうだ。
でも裏を返せば、時間さえかければ誰でも魔法が身につくってことだ。
それって、けっこうすごいことじゃないか……?
退魔士の世界では、才能が99パーセントと言われてる。
退魔……つまり、妖魔を倒すために必要となるエネルギー、霊力量が生まれたときにすでに決まっており、どうやっても変えられない(増やせない)からだ。
戦い方を学んだり、結界術を身につけたりは、後天的にできる。でもやはり、霊力がないと話にならない。努力なんて、意味が無いのだ。
一方で、こっちは魔導書を読めさえすれば、誰でも魔法が身につく。それは……素晴らしいことだと思う。
いや……でもまてよ。
「MPって増えるのか……」
魔法にはMPが必要だと書いてあった。
そうだ、霊力と同様、MPも絶対量が変わらない可能性だってあるぞ……。
そしたら魔法でも、現実世界と同様、努力も意味が無いことにならないか……?
~~~~~~
MP
→魔法を使う際に、消費されるエネルギー。
10歳までは、使用した分だけMP量が増える。
~~~~~~
……まじかよ。
一応、MPは増やせるようだ。……10歳までは、だけど。
「………………」
俺は高校生だぞ。くそ……。なんだよ……。結局こっちでも同じなのかよ……畜生……。
「はぁ……期待させやがって……」
ぺいっ、と俺は魔導書を投げる。結局こっちも才能の世界ですか。
どこでも一緒……畜生……。
「ん? なんだ、ベッドの脇にあるの……。杖……?」
100センチくらいの、木製の杖? らしきものが、ベッドにたてかけられていた。
~~~~~~
極大魔法の杖(S)
→極大魔法【煉獄業火球】が付与された、魔道具。使い捨てであり、使用回数は残り10
~~~~~~
「使い捨て……? 使用回数……って、まさか……」
と、そのときだ。
「ゴギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「ひっ……! な、なんだ……?」
建物の外から、ケモノの咆哮のようなものが、聞こえてきたのだ。
窓の外を見やる。
「!? な、なんだよあれ……!?」
翼の生えた……恐ろしい存在が、窓の外にいたのだ。
妖魔……? い、いや……こ、ここにいるわけがない……。じゃ、じゃあなんだ? あれ、なんだ? あれ……?
「ゴギャァアアアアアアアアアアアアアア!」
「ひぃいいいい! く、来るなぁあああああああああああああ!」
俺は思わず目を閉じる。ドラゴン? が襲いかかってきて……。
ガキィン!
「………………あれ?」
俺はゆっくり目を開ける。建物は、壊れていない。敵が……襲いかかってきたのにだぞ?
どうなってる……?
「あ、あいつ……近づけてない! なんだありゃ……?」
ドラゴン? はまるで見えない壁に阻まれてるかのように、建物に近づけないで居た。
「結界術みたいだ……」
霊力を使った防御術だ。妖魔の侵入を防ぐ効果がある。
それと似てる……。まさか、結界が張られてるのか……?
何度も、何度も、ドラゴンはこちらに向かってぶつかってくる。でも……やつはこちらに入ってこれない。
「………………はぁ」
俺は、思わず安堵の息をつく。良かった……。
しかし一体ナニが起きてるんだ……。あ、そうか。わからないなら鑑定使えば良いのか。なんで思いつかなかったんだ……。
「か、鑑定!」
~~~~~~
翼竜(B)
→異世界にすむ竜種の1つ。空を高速で駆けることができる。竜種のなかでは最も弱い
~~~~~~
や、やっぱりドラゴンだったのか……。
こんな怖そうなのが最弱ってまじかよ……。
~~~~~~
神聖結界(S)
→上級光属性魔法。あらゆる魔物の侵入を防ぐ結界を構築する。永久不滅である。
~~~~~~
やっぱり結界が張られていたようだ……。
しかし、す、すげえな。永久不滅で、あらゆる魔物を入れないって……。
破格すぎるぞ……。向こうの、凄腕とされる結界師でさえ、1時間しか結界を持たせられないのに……。
……これ、使えたらなぁ。
『条件を達成しました』
『結界、聖結界、神聖結界を習得しました』
………………………………は?
★
え、なんだって……?
今、なんか女の声が聞こえたような……。
それに、結界や聖結界、神聖結界を習得したって……?
「ゴギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
翼竜が、何度も何度も結界にぶつかってくる。
まったく、諦める様子がない。
「お、追い払わないと……でも、どうやって……?」
ふと、俺は手に持っている極大魔法の杖に目をやる。
そうだ。こいつ、使い捨てって書いてあった。
使用回数もあるってことは……もしかして、MPがなくても、この煉獄業火球ってやつを撃てるんじゃないか……?
わからない。でも、やってみる価値はある。
このまま何もしなくても、確かに死にはしないが──
……翼竜は、諦める気配を見せない。
……よし。
俺は窓から外へ出た。
翼竜は、いまだに聖結界に向かって何度も体当たりしている。
俺は杖の先を、そいつに向ける。
……いや、待て。ここは結界の中だ。魔法って、通るのか……?
ええい、ものは試しだ。もしダメなら、外に出て撃てばいい。
俺は杖を構え、翼竜を狙って──念じる。
出ろ……魔法……!
すると、杖の先に魔方陣が展開された。
魔方陣から、巨大な火の玉が出現し──
翼竜めがけて、放たれる。
どがぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
……凄まじい爆発音が響き渡る。
俺は思わず、目をつむってしまった。
やがて、静寂が訪れる。恐る恐る目を開けてみると──
「よ、翼竜……いねえ……」
つまり、あの魔法で……倒せたってことか……?
『レベルが上がりました』
また、あの女の声がした……!
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』……
延々と、俺の脳内に、あの女の声が響く。
やがて「レベルが上がりました」のアナウンスが止むと──
『条件を達成しました』
『火球、業火球、火炎連弾、煉獄業火球を習得しました』
……まただ。また、習得しましたって……。
一体、何が起きてるんだ……?
そうだ。こういう時、アニメとかだと……とりあえず──
「す、ステータスオープン」
~~~~~~
【名前】霧ヶ峰 翔馬
【種族】人間
【レベル】55
【HP】5500
【MP】5500
【攻撃】550
【防御】550
【知性】500
【素早さ】500
【職業】まれびと、来訪者
【スキル】鑑定、アイテムボックス、獲得経験値増加、限界突破、上級光魔法、極大火魔法、世界扉
~~~~~~
「な……!? は!? なぁ!?」
ちょ、ちょっと待て。
レベルが、上がってる。たぶんモンスターを倒したからだ。
レベルが上がると……HPも、MPも増えていた!
「そ、そうか……! MPは、レベルを上げれば増えるのか!」
は、はは……。
俺はその場にへたり込み、そして──腹の底から、じわじわと明るい気持ちがわき上がってきた。
「こっちだと……モンスターを倒せば、レベルが上がる。レベルが上がれば、MPも増える」
現実世界じゃ、あり得ないことだ。
あっちは、霊力量は生まれたときから固定で、いくら妖魔を倒しても変わらない。
それが、退魔士の世界の“ルール”。
でも……異世界のルールは、違う。
モンスターを倒せば、レベルが上がる。レベルが上がれば、ステータスも上がる。
努力が──結果に反映される!
はは……すげえや……異世界……。
「って、あれ?」
……職業欄に、新しいジョブが追加されてるのが目に入った。
「来訪者……? それに……世界扉……?」
シュンッ……!
……と、目の前の景色が一変した。
「……………………は?」
俺が立っていたのは、異世界じゃなかった。
「げ、現実……世界だ……」
そう。俺がトラックにひかれた、あの歩道の上だった。
見慣れたコンクリートの道。行き交う人々。そして、降りしきる雨。
「ま、まさか……さっきのスキルって……」
~~~~~~
世界扉
→異世界と現実とを行き来するスキル。
~~~~~~
やっぱりだ!
俺は……異世界と現実を行き来できるスキルを手に入れたんだ!
「いや、待て……。こっちでも、魔法って使えるのか……?」
そのときだった。
上空に、一匹の虫怪が漂っていた。
虫怪──低級の妖魔である。そいつと、目が合う。
次の瞬間、虫怪がこちらに向かって襲いかかってきた!
……でも、不思議と恐怖はなかった。
たぶん、翼竜を見たあとだからだ。
俺は冷静に、右手を前に突き出していた。
「【神聖結界】」
スキル欄にあった、上級光魔法。そのうちの一つを、発動。
あの建物を包んでいたのと同じ光の結界が、俺を中心に半球状に広がる。
結界にぶつかった虫怪は──
「ギャァアアアアアアアアアア……」
「…………き、え、ちまった……?」
異世界のモンスターは、結界にぶつかっても消えなかった。
でも、こっちの妖魔は……ぶつかっただけで、消えた。
この違いは、なんだ?
……いや、それは後で考えるとして。今、大事なのは──
「魔法が、妖魔にも有効ってこと……!?」
……俺は、これまで妖魔一匹、倒せなかった。
でも今は、異世界でレベルアップし、魔法を習得したおかげで──妖魔を倒せたのだ。
しかも、“魔法”という、この世界には存在しない超技術を使って。
「は、はは……まじかよ……」
つまり──だ。
……落ちこぼれ退魔士だった俺だけが、異世界でレベルアップし、現実世界で無双できる!
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
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