異世界召喚されたらアニメキャラがいた
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桃山高校1年2組の生徒たちは放課後の時間を思い思いに過ごしていた。
ある者は部活に向かう用意をして、ある者は同グループの生徒とどこに遊びに行くか相談をし、ある者はスマホでアニメの動画を見ていたりしていた。
もうあと暫くすれば生徒たちも皆、教室からいなくなるであろうというその時に教室の床がまばゆい光を発し始めた。
光は形を変化させ幾何学模様をとり、やがては魔法陣と呼ばれるような形へと変化しさらに激しく発光し生徒たちは目を開けていられなくなり、やがて光が治まった時には誰もいなかった。
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生徒たちが目を開けると石造りの広い部屋の中におり、先ほどまでいた教室とは似ても似つかない場所におり、一部のオタク戦士を除く面々はなにが起こったのかわからず動揺していた。
そこに部屋の入口付近にいた中世の王侯貴族のような服を着た者たちの中から、ひときわ豪華な衣装を着た壮年の男性が進み出る。
「来訪者の皆様方、われらの召喚に応じていただき感謝する」
その言葉に生徒たちはどういうことか察してざわつき始める。
「召喚」「異世界って事?」「あれって王様か」「帰れるのか?」
ざわつく生徒たちの中から1人の女性が進み出てきた。
その女性は質素ながらも質の良いドレスとケープを着ており、腰まである金髪と碧眼をした明らかに日本人と異なる容貌、高校生ではない服装をしていた。
「ぬ。そなたは何者か?」
王らしき人物の誰何に、女性は名乗りをあげーーー
「あーーーーっ、ソフィアたんだーーーーっ!!」
ようとして、遮られた。
ソフィア(?)の名乗りを遮ったのは、教室でアニメを見ていたオタク戦士の1人であったが、女性が何者か気づいた生徒たちがソフィア(?)を囲み始める。
それをポカーンと見つめる異世界人をよそに生徒たちは盛り上がりを見せる。
「アニメのまんまだ。これコスプレ?」「顔ちっちゃ、素朴ながらすっごい美少女」
戸惑っていたソフィア(?)が、困惑した様子で周囲の生徒たちに話しかける。
「アニメ?コスプレ?確かにわたくしはファーゲン王国王妃ソフィア=レイシル=ファーゲンですが、あなたたちは一体なぜわたくしを知っているのでしょうか?」
ソフィア(確定)の言葉に、異世界人たちは『マッジで?要人攫っちゃまずいっしょ』と冷や汗を流していたが、生徒たちはますます盛り上がる。
「本物?マジ?既に王妃の時間軸のソフィアたんかー。でも、ファーゲンでは不遇な境遇だったし。今なら、おれ達で救えるんじゃね」
その言葉にソフィアはますます困惑を深めるが、そこに異世界の王らしき人が声を掛ける。
「ここは暗いし、そこ御婦人も困惑しておられる。場所を変えて話をせぬか?我々の話も聞いていただきたい故な」
王らしき人の提案にのり、皆で玉座の間に移動をした。
「改めて余がアルテス国王のグラム=ヴィクテム=アルテスである。此度は魔族の侵攻から人類を救ってもらいたいと願い、そなたたちを召喚させてもらった」
本当に国王だったグラム王の言葉で、昨今、異世界転移なる言葉がメジャーとなっている現代人たちは『そのパターンね』と事情を把握した。
「さて、では、ほかの来訪者とは異なる貴女が何者なのか教えてくれぬか?」
「わたくし自身が状況を分かっておりませんが、ファーゲン王国王妃ソフィア=レイシル=ファーゲンと申します」
ソフィアが名乗ったところで、1人の生徒が立ち上がる。本来不敬な行動ではあるが、相手は異世界人であるのでアルテス国側もとがめたてない。
「すいません。おれは斎藤と言います。たぶん、おれから説明した方がいいと思うんで」
「そうか。ならば頼む」
「はいっす。では、おれ達のいた教室で魔法陣が出た時にゼクロイア戦記のアニメを見ていてちょうどソフィアたんのシーンだったんでソフィアたんまで呼ばれちゃったんじゃないかなーって」
コミュ力のあるオタク戦士斎藤が物おじせずに説明をするが、そもそも自分の知っているネタを相手も知っているように話すのが悪い癖である。
それを見ていた、クラスのリーダー的なイケメンが立ち上がり捕捉を始める。
「斎藤君の説明では分からない部分も多いでしょうから、私から捕捉いたします。私は剣崎と申します。まず、ゼクロイア戦記というのはーーーーー」
とうとうと剣崎が説明していくと、アルテス国側もソフィアも理解の色が広がるがソフィアの表情は暗くなっていく。
「それじゃ、実際に見てもらうのが早いっすね」
剣崎の説明が終わったところで、斎藤がスマホにゼクロイア戦記の動画を流し始めた。
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ゼクロイア戦記とは人気のアニメで現在第3期が放送されており、侵略国家ニブルヘル帝国に主人公達レジスタンスが戦う物語である。
ソフィアは初期から中盤まで登場するキャラクターである。
小国の王女であったソフィアは強大な魔力を持っており、幼いころに暴走させてしまったことで心に傷を負っており、それを偶然出会った主人公に救われたことから、主人公にほのかな好意を持つ。
しかし、王族としての誇りをしかと持っており、関係強化のため同盟国の王のもとへ嫁入りする。
王は小国の王女と侮りソフィアを粗雑に扱うが、故郷をこの国をそして、主人公を守りたいという強い意志を持って行動し、やがて臣下たちに認められていく。
だが、王は帝国と通じており帝国の甘い言葉にそそのかされて、ソフィアの故郷の小国を滅ぼしてしまう。
さらに帝国はファーゲン王国にも攻め入り滅ぼす。ソフィアは見せしめに処刑され、主人公たちが駆け付けた時には首をさらされていた。
なおかつ遺体を帝国に利用され、ソフィアの魔力を持つ怪物として主人公たちを苦しめた。
これでもかというくらい作中屈指の不幸を背負ったキャラクターである。
公式の設定ではソフィアは作中最大の火力を持っており、魔力を放出するだけで大地を谷にできるくらいなので、敵にするためヤっちゃった。と書いて炎上していた。
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さて、アニメを見た面々は泣いていた。それはもういい年したおっさんたちが泣いていた。
「ずびっ。うべっ。ソフィア王妃そなたの生き様は見事であったぞ」
「いえ、まだ死んでいません」
グラム国王の言葉に複雑そうに返す。
自分の不遇の未来など見せられれば、至極当然な反応である。
生徒たちは召喚のことは思うことはあれど、おっさん達を認めた。
アニメに共感できるおっさんは、いいおっさんだ。
アニメを見ていなかった生徒たちもソフィアのことを救いたいと思った。気のいい奴らである。
やがて、異世界人を尻目に生徒たちは固まって相談をはじめたが、しばらくして結論が出たらしく剣崎がグラム王の前に進み出る。
「陛下。この世界の願いは魔族の討伐という事でしたが、魔族と言うのはどのような種族でしょうか」
「ああ、奴らは食人種だ。獲物と肉食獣という関係じゃな。どうやっても相容れん」
「それでしたら、魔族を倒したらその土地をいただいてもよろしいでしょうか?」
グラム国王はわずかに悩むと結論を出す。
「あれは我らの土地ではないので確約はできん。しかし、そなたたちの所有権を支持しよう」
「ありがとうございます。皆、やるぞ!」
「ふっ、作戦立案はこの昼神太陽に任せてくれ。計画通りっにして見せよう」
「ふふん、あーしたちの女子力で魔族なんぞコロコロしてやんよ」
来訪者たちはチートスキルを鑑定すると、そのまま準備を整えて魔族領に向けて出撃する。
ソフィアをわっしょいして。
「え?」
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来訪者は魔族領に来ると戦ったこともないはずの日本人たちが、まるで蛮族のごとく魔族を狩り始めドン引きするソフィアをよそに魔王城が見える場所まで来た。
あからさまに魔王城の雰囲気を出している暗黒オーラが伸びている方向に指をさして、ソフィアに魔力を放つよう請願する。
自身の魔力を使うことにまだ恐怖があるが、自分のために行動してくれる生徒たちのために勇気を出して魔力を高める。
高まった魔力を察知した魔族が城から出たところで、ソフィアが魔王城に向けて魔力を放つと一瞬で魔王城と中にいた魔王は蒸発した。
ソフィアが魔力を放った先にあった山まで消滅しており、公式設定のとおりだなと生徒たちは歓声を上げソフィアを胴上げする。
「え?え?」
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魔族を倒した来訪者たちはアルテス国に凱旋して、約束通りの土地を望むとグラム王は他国にも呼びかけを行った。
魔族領の資源を思い難色を示す国もあったが、ゼクロイア戦記のアニメを見せると鼻水を垂らして承認をしてくれた。この世界大丈夫か?
そうして、元魔族領を手に入れた来訪者たちは生産系のチートスキル持ちが活躍をして、アニメをはじめ娯楽を主要産業とした国を興し大いに発展した。
ソフィアを初代女王として。
「え?え?え?」
まったく展開についていけなかったソフィアだが、後年は来訪者たちに強制的に幸せにされ悲劇の面影も感じられなかったとされている。
頭を空っぽにして書きました。